宵の明星

Step.96 10

「おい!夕月!」

宵が周りに落ちている刀で使えるものを探している時、背後から声がかかった。振り向いて見るとそこにはイタクがいた。

「何…。」
「ほらよ。」

カシャンと音を立てて宵の手元に落ちたのは二対の刀。それを見て、宵は微かに笑う。

「…黒金、白銀。良かった…。」
「それがねぇとお前、戦えないだろ?」

不敵に笑ったイタクに宵は目を細める。何かを口にしようとして、背後から来る殺気に咄嗟に口を閉じた。そして、舞う様に上へと飛ぶ。宵が先程までいた場所に深々と羽衣狐の尾が刺さっていた。宵は小さく舌打ちをすると黒金を鞘から抜いた。

《良いのか?お前のままで。》
「あぁ。この時は僕のままで終わらせると決めてたから。」
《そうか。では、俺はお前に全てを託そう。》
「ありがとう、黒金。」

宵は深呼吸をし、肩の力を抜いた。そして、すっと戦場の真ん中を歩いて行く。何にも気づかれずただ淡々と歩いていく。それは"ぬらりひょん"の特性であった。

「ほぉ?いいのか、父親は。」
「まずはあんたを倒してからだ、羽衣狐。」
「くくっ。良い余興じゃ。」

宵は走り出し、黒金を振り上げる。だが、それは羽衣狐の三尾の太刀で防がれた。羽衣狐の尾を蹴りあげ距離を取る。宵の顔には冷や汗が滲んでいた。

「畏を使わぬで妾に勝とうなど笑止!」

羽衣狐の言葉にちらりとリクオを見た。宵は思う。もし、ここで畏を使ってしまったら。リクオに自分の正体が分かってしまう、と。だが、宵がそう思っていられるのも僅かであった。

いくら攻撃しても届かない刃。一向に減っていく体力。そして、消耗していく精神。

中身は羽衣狐と分かっている。だが、宵にはそれが自分の母に見えて仕方がない。その造形は全て母のものであり、山吹乙女のものだ。それが、醜く歪むのが耐えられない。

「仕方が無い。」

目を閉じ、息を吸い込むと宵は畏をまとった。周りには宵の姿が消えたように見えた。羽衣狐は微笑を浮かべ悠々と空中にうかんでいる。
宵は静かに近づき斬りかかったが、すぐ様反応した尾に防がれてしまう。そして、吹き飛ばされた。

「かはっ!」
「おい!夕月!」
「弱い弱い!お前の畏はそんなものか!これでは余興にもならぬな。」

宵は背中を瓦礫に打ち付ける。リクオが宵に駆け寄り、支えた。呼吸が荒く立っているのさえやっとな宵。

「一太刀お前に浴びせるだけでいい。くそっ!なんで僕はこんなにも……。」

瓦礫を叩く宵の腕は血が滲んだ。泣きそうな顔をしているが決して涙は流さない宵にリクオは口を開いた。

「夕月、お前一旦休んでろ。あいつの相手はお前には無理だ。」
「何故ですか!僕はまだ戦える!」
「親父。夕月を頼む。」

リクオは近くに来た鯉伴を見やり、宵を頼んだ。今にもまた羽衣狐に挑んで行きそうな宵を鯉伴は抱きしめ止めた。

「離せ!鯉伴!行かなければ!俺が行かなければ、死んでしまう!」
「落ち着け!夕月!リクオを見……あ?」

空に浮かんでいた子供の形をした黒い物体がパキパキと割れ、ついに爆ぜた。巨大な欠片が落ちてゆく。

「晴…明?晴明!?晴明なの!?……待ちわびたぞ!」

羽衣狐が感極まったように叫ぶ。周りの妖怪達も、安倍晴明の復活に雄叫びを上げた。

「余興は終幕だ。我々の闘いなど晴明誕生前夜の盛大な余興にすぎないのだから。
……長かった。千年の記憶がよみがえる。」

おちてゆく欠片に羽衣狐の記憶が映る。貧しい村の子供から戦の女まで様々な今までの記憶が映し出され、千年という時の流れを感じさせる。

「お前たちさえいなければ、晴明にもっと早く会えたのじゃ!!」

羽衣狐は尾でリクオを弾き飛ばし、動けなくなったリクオに刀を振り上げた。

「これで、本当にしまいじゃ。」

羽衣狐の背後に巨大な欠片が落ちてゆき、鯉伴と宵が小さい羽衣狐に刺されている記憶が映された。
それは、羽衣狐の記憶ではない。鯉伴が刺されるのをみた人物、リクオのものであった。

「ううううううう!!!」

羽衣狐は頭を抱え、苦しみ出す。それを好機と取ったゆらと竜二と魔魅流は破軍を発動した。羽衣狐に呪文が巻き付き、動きを封じる。そして、リクオが祢々切丸を持ち直し、羽衣狐に突き刺した。

その光景を鯉伴に押さえつけられながら見ていた宵は叫んだ。

「ぁぁああ゛あああ゛ああ゛!!!」


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