宵の明星

Step.96 8

一方その頃、リクオと鯉伴は行動を共にしていた。

土蜘蛛に大打撃を与えたリクオを見て鯉伴は内心感動していた。自分の息子がここまで成長するとは思っていなかったのだ。自らが生み出した鬼纏。それさえも自分のものにしてみせた。

「よくもまぁ、ここまで成長したなリクオ。」
「親父。」
「俺はちょっくら先に行くぜ。夕月が連れていかれてんだろ?ぜってぇに連れ戻す。」

宵がつれさられたことをリクオから聞かされていた鯉伴。その顔には憤りがあった。宵を我がものとしようとしている羽衣狐。それに鯉伴は怒っているのだ。この間の出来事。それは深く鯉伴の心の中に残っていた。夕月という自覚を失い、羽衣狐として過ごしていたあの時間。決して忘れることは無い。

「無事ていてくれよ。夕月。」

二条城の門番たちをするりと躱し、中に入っていく鯉伴。
中にいる妖怪の多さに目を見開いた。羽衣狐の宿願をこれほどまでに願っている妖怪がいるのかと呆然とする。
鯉伴の侵入に気づいた妖怪達が襲いかかってくるがねじ伏せていく。きょろきょろとあたりを見回すがただの妖怪しかおらず、羽衣狐の側近の姿は見当たらなかった。鯉伴は唇を噛み締め、城の奥へ奥へと進んでゆく。

しかし、それも途中で終わった。地下深くから這い上がってきた何か。それを見た瞬間、鯉伴は自分の目を疑った。にぎっていた得物さえも取り落としそうになる。

出てきた、その人物の、顔、身体、全てが山吹乙女のものであった。鯉伴の記憶の中の人物と違うところをあげるのならば1つ。表情だけ、だろう。

「妾は、この時を千年――――
待ったのだ。妖と人の上に立つ…鵺とよばれり新しき魑魅魍魎の主が…今ここで生まれる。皆の者…この良き日によくぞ妾の下へ集まった。京都中から――そして、はるばる"江戸"や"遠野"から妾たちを祝福しに。全ての妖どもよ…"大儀"であった。」

羽衣狐の言葉に周りの妖怪達が雄叫びを上げる。

「そうかそうか祝うてくれるか。くるしうないぞかわいいやつらじゃ……。」

唇を固く噛み締め羽衣狐を睨む鯉伴。その脳内では宵が羽衣狐に乗っ取られていた時に言った言葉が反響していた。

『この子供の母親なんだからのぉ!』

この子供とは、乗っ取っていた夕月のこと。では、母親はあの、体の人物"山吹乙女"ということになる。

その先の思考にいたり、鯉伴は愕然とした。
鯉伴は遂に気づいてしまったのだ。長年、宵がつき続けていた重い重い嘘。自らの心に嘘をついてまでも、つき続けていたそれを。

「夕月、おめぇは……。」

鯉伴は目だけで殺せそうな程威圧だし、刀を握り直した。その目はしっかりと羽衣狐を見つめていた。

「許さねぇ。」

***

陰陽師が羽衣狐に敗れた頃を見計らい、鯉伴は羽衣狐の前に身を乗り出した。

「ほぉ!やっと来たか奴良鯉伴!のう?驚いたであろう。お前がかつて愛していた女じゃ。」
「てめぇ、一旦黙れ。」
「くくく。最愛のおなごを妾に取られた気分はどうだ?」
「うるせぇって言ってんだろ!」

鯉伴は羽衣狐に切りかかる。だが、羽衣狐は尾で跳ね除ける。そして、刀が届かない鯉伴を笑った。

「笑止!それ程の力で妾に勝とうなど戯言をいうな?」
「はっ。こんなの全力の半分も出してねぇよ。」

鯉伴はゆらりゆらりと羽衣狐に近づいてゆく。ただの畏もなにも見せず、ただ愛しいものを見るかのように近づき笑った。
だが、その一瞬後鯉伴は羽衣狐に斬りかかった。

「ふふ!親子の対面といこうかのぉ!」

それを見ていた羽衣狐も笑いながら尾に"何か"を掴み、鯉伴の目の前に出した。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -