宵の明星

Step.96 4

side宵

精神統一してから約一刻と言ったところか、よく知っている畏を感じた。あぁ、これはリクオ様だ。ふっと気を抜き下を伺いみる。すると、やはりリクオ様がいた。
だが、安心している場合ではない。あのままではあの男にリクオ様は殺されてしまう。
そう思ったら体は素直だった。木から飛び降り風塵が舞う中リクオ様の前に立ちこれから来るだろう衝撃を堪えた。数秒後、肩と脇腹に何かが亀裂をいれた。

風塵が止み視界が明るくなる。ポタポタと血が落ちる。あの男、殺す気ではなかったのか。こんなのただのかすり傷にしかならない攻撃だった。

「夕月……?なんで、ここにいるんだ。」
「貴方を、守る為に…。遠野よリクオ様を傷つけてみろ。ただじゃおかねぇ。」

一瞬だけ畏をだす。だが、遠野妖怪は動じた風には見えなかった。

「はぁ。てめぇみたいのが多いのか?ぬら組ってのはよぉ。だから、こいつが何も出来ねぇんだよ。」
「知った振りをするな!てめぇらみたいに妖怪バカじゃねぇんだよ。………それに、もう、失うかもしれない恐怖を味わいたくはない。」
「あ?」
「とにかく!リクオ様を傷つけるな。丁寧に扱え!」
「それは出来ねぇ約束だな。」
「殺るか?」
「いいぜ、乗ってやるよ。」

リクオ様は本来なら傷つかなくてもいいのだ。全て、こちらの世界の問題で、唯一関係があるとするならば鯉伴様の件だけで。でも、それは俺の不手際からなったこと。俺が全てどうにかすればいい。

「ちょっと、まて。夕月、俺はそんな事望んじゃいねぇよ。何勝手に俺の傷奪ってんだ。俺はそこまで子供じゃねぇ。ここにいる間お前は俺に関わるな。」

世界から音が消えた。何を言っているリクオ様は。関わるななど。嘘、だよな。

「うそ、ですよね。」
「俺がいま嘘をついているようにみえるか?」

どうして。なぜ。そんな言葉が俺の頭にまわる。
だって、リクオ様は鯉伴様の大事な大事な子供で守らなくちゃいけなくて。それに、リクオ様は俺の恩人でもあって、俺の希望で、太陽で、光で。鯉伴様の道具の俺には言われたことしか出来ないから、リクオ様を護らないなら俺の存在意義は何?

「ちょっと、夕月。顔色悪いわ。こっちに来て休みなさい。」

そのまま連れゆかれて、木の枝に寝かせられる。ひんやりとしたものが頭に乗っけられたから冷麗が氷を作ったのだろう。

「大丈夫?」
「…自分の、存在価値を見失った。」
「存在価値?」
「俺は、鯉伴様…リクオ様のお父様の道具だから。単純なことしかできない。言われたことを成して、それをだめだと言われたら俺はどうすればいい?」

泣きそうな俺を冷麗は呆れたように軽く叩いた。

「自分の事を道具なんていうんじゃないの。貴方は意志がある立派な妖怪じゃない。リクオを護りたいと思ったからあの場に降り立ったんでしょう?それが、リクオには悔しかったんでしょうね。自分は護られてばっかりだって。だから、あんな態度取っちゃったのよ。

大丈夫よ。貴方はリクオから見限られたりしない。」
「は、はっ。うん。そっか。……うん。ありがとう冷麗。」

冷麗の言葉は何処か穏やかな気持ちになれた。
心に染み渡りなにか凝り固まったものを解してくれた。


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