宵の明星

Step.96 3

Side宵

目を開け一番に探したのは2本の刀。いつもなら顔のすぐ横に置いておくそれらが無く飛び起きた。辺りを見回しても黒金と白銀がない。
キョロキョロと頭を回しながら周囲をみると後ろにリクオ様が眠っている。なにも掛けずに眠っていては風邪を引いてしまう。今は俺の羽織を掛けておくしかないか。そっと、羽織を掛けすやすや寝ているリクオ様をみて少し笑った。

さて、さっきからこちらを見ている妖怪達はなんだろうな。

「で?あんたらは遠野妖怪であってんの?」
「くすくすくす。威勢がいいのぉ。そうじゃ。わしらが遠野じゃ!」
「ふーん。なぁ、返してくれ。俺の刀。」
「それは無理だな。お前はそこの小さいののお守り役だろう?ならば、それの修行が終わるまでお前はここにいなければならない。それまでは返せぬ。」
「リクオ様の修行が?」

リクオ様が帰らなければ黒金も白銀も帰ってこない。ならば、リクオ様に頑張ってもらうほか無いじゃないか。

「お前さん達には修行の他に雑用もやってもらうからな。」
「それはいいが、お前さん達って俺も修行するのか?」
「なんじゃ、聞いていなかったのか?」

……絶対に鯉伴はあの場で決めやがったぞ。あぁもう!修行でも雑用でも何でもやってやる。だから、早く羽衣狐の元に行かなければ。

「一つ頼みがある。リクオ様の雑用、全て俺に回してくれ。いいだろう?」
「ならん。その雑用も修行のうちだ。」

頭の硬い奴らだな。

***

一先ずリクオ様が起きる気配がなかったから先に雑用をやろうと案内された場所に来たけど、ただの洗濯?いつもやってるから別に苦じゃないからいいけど。しっかし、この川綺麗だなぁ。ひんやりしてて気持ちがいい。ふと、川辺を覗いたら自分の顔が見え固まった。
いや、自分の顔が見えるのは当たり前だけどその顔が妖怪だった事に驚いた。なぜ?俺はいつも意識的に人間の方になっているのに、妖怪の方になっているんだ?これじゃぁ、バラしているのと変わらない。戻ろうとしても何故か戻れない。

「仕方ない、かぁ。あぁ…どうしよ。早くこんな所出て殺さなきゃいけないのに。」

でも、一先ずこの洗濯を終わらせてしまえ。あとは上に登って干すだけだし。
苔が少ないところを選んで登り、素早く乾きやすいように干す。というか、なんで遠野妖怪はこんなにでかい服が多いんだ?俺が四人入っても余る位の大きさの服なんてざらなんだが。

「ねぇ、貴方が夕月っていうの?」
「ん?あぁ、そうだけど。さっきから着けてたのあんたか。見たところ雪女か?」
「ええ。そう雪女の冷麗。貴方の指導係。けれど、貴方はもう發や憑は出来るんでしょう?赤河童様が言っていたわ。ならば、貴方のする事は一つだけ。精神力を鍛えなさい。」
「精神力?」
「ええ。着いてきて。」

***

冷麗について行ったところに巨大な木でできた場所があった。

「ここは?」
「一番大きい実践場。でも、ここは使わない。あなたが使うのはあの木の上よ。」

冷麗が指さしたのは高くそびえ立つ木の枝だった。あそこで俺になにしろと?

「あそこで精神統一してなさい。あそこなら色々な妖怪の畏が感じられる。そして、畏を断ち切っていきなさい。畏は時に残酷なほど嫌な記憶を見せてくる。貴方はそれを断ち切りなさい。」

そう言って冷麗は実践場の方へと歩いていった。精神統一しろって言ってもそれが修行なのか?
強くなる気がしない。でも、ここで、俺がなにかしてリクオ様にもしものことがあったら俺は……。
しょうがない。やってやるさ。何でも。


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