「はー。いいお湯。」
「あぁ。そうだな。」

宵と鴆は2人で風呂に入っていた。まだ時々目が痛むという宵に付き添うために鴆は入っているだけなのだが。宵の右顔を覆い隠す程の前髪は今はお湯に濡れ、かきあげており、顔全体を外に見せている。

「にしても、良くなったな、その痣。」
「んー?あぁ、この痣か。羽衣狐が地獄に落ちたからね。呪いが消えたんでしょ。多分だけど。」

宵は顔の痣があった部分を触り掌で覆い隠した。そこには、痣はないものの痕が残っている。

「……お前さ、髪切ったらどうだ?」
「え?」
「暗いんだよ。降ろしてると。いい加減切っちまえ。もう、隠すもんでもないんだろ。」
「ん、でも、なぁ。」

うーん、と唸るように宵は眉を潜めた。

「少し、怖いんだ。皆がこれを見て気味悪がるのを想像すると。」
「はぁ?んなこと誰も思わねぇよ。」
「皆が皆鴆みたいじゃないんだよ。………でも、まぁ考えてはみるよ。」

そう言い宵は風呂をでる。脱衣所で体を拭きながらふと鏡に映る自身を見た。そこにはただ凡庸な妖怪がいるだけだ。
だが、その体は本来なら死んでいるはずのもの。この世に留まってはいけないものなのだ。宵の魂もしかり。

「……生きては、いけない。それが、僕の運命。」

山吹乙女から産まれた日から課せられた運命。全て、山吹乙女と奴良鯉伴の為の命。宵の為の人生など、ない。

「決まっていたことだ。覆せなるわけない。」

宵は目を閉じ、軽くため息を落とすと着物を着て、脱衣場から出ていった。

***

「よぉ、宵。」
「…リクオ様。どうしました?」

宵が風呂上りの体を冷ますために縁側で夜風に当たっているとリクオが話しかけてきた。リクオは妖怪の姿になっており、宵はリクオを見上げた。

「……様、なんていらねぇよ。あんたは俺の……あ、兄貴なんだ。」

微かに頬を赤らめるリクオに宵は瞬きを数回した。そして、リクオの言葉を噛み締めるように話す。

「えぇ、そうですね。ですが……もう、これは癖になってしまったんですよ。直せません。」
「癖って、あんたは夕月じゃないんだろ。」

リクオは不思議そうに宵を見つめた。宵はかすかに目を細め、リクオを見つめ返す。

「……僕は、どこかで夕月を受け入れてた。だから、多分この癖が抜けない。ねぇ、リクオ様。俺の存在を否定しないで下さい。」

宵はふいっと顔を夜空に向けた。そこには満天の星空がある。今にもこぼれ落ちそうな星たち。それに向かい宵は手を伸ばした。

「人も、妖怪も、皆この空の下で生まれた。全てが互いに思いあい生きていれば良かったのだ。」

宵は滔々と語り出す。自らがその過去を見ていたかのように。
宵は裸足のまま庭に下り立ち両手を広げ話す。

「しかし、人間共は我らを否定した。そしてあろう事か、我らの領域である夜さえも侵食し始めたのだ!これをそのままにしておけるわけもあるまい。」
「宵……?」
「お前も知っているだろう。奴良リクオ。妖怪が人間共に消される事を。
この世界には粛清が必要だ。全てを一から作り直さなければいけない。」

宵は池に映る自身を見た。そして、眉を顰める。長い前髪を引っ張りあげた。

「この髪、邪魔だな。」

そういいながら宵は前髪を切り落とした。ハラハラと落ちていく髪。それを見つめていたリクオは宵の目に五芒星が輝いているのが見えた。宵は目を見開くリクオを見て、クスクスと笑う。

「どうした、奴良リクオ?」
「てめぇ、まさか。」

リクオが問いただそうとしたとき不意に宵の体が傾く。その行動は宵にとっても突然の事なのか目を見開いている。

「……まだ、堕ちきれていないのか。」

そう言いながら宵は池へと落ちていく。パシャリと音を立てながら沈んでいく宵をリクオは呆然と見ていた。







|

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -