犬がmuffinと嗤う 04 村尾は耳障りな音と声に、暗い闇の底から意識を浮上させた。身動ぎするが鈍い身体に眉根を寄せる。思い瞼を緩慢に開けば、視界に広がった光景と同時によく知る男の嬌声が上がった。 「っは、ぁ!」 そこで反射的に身体を起こそうと肩を動かして、自身の腕が後ろ手に縛られている事に気付く。村尾は痛む頭に吐き気を覚えつつ、今の動きの源がただの驚きであって欲しいと願いまた瞼を下ろした。 音を出さぬ様慎重に状況を把握する。どうやら先刻兄が金海に暴行を受けていると相談を持ち掛けて来た生徒は餌だったらしい。恐らくその事実はあったのだろう。緊迫した雰囲気の生徒からは偽りなど感じ取れなかった。 耳に否応でも入る塗れた音と声は瞼の向こう側で行われている行為への認識を再確認するだけのものでしかなく、迫りあがる嫌悪感を抑え込んで大きく息を吐いた。 「あ、起きた?」 どうやらその音に目敏く気付いた者がいるらしい。声をかけられゆるりと目を開くと、行為を隠すかの様に目の前で座る男が村尾の顔を覗き込んだ。 横向きに寝転がる身体を起こそうと胴体を捻る。 「っ」 「まだ動かない方がいいよ、気持ち悪いでしょ?」 優しく接するかの様な声はその実村尾を制する腕に疑わしさを滲ませていた。諦めて体制を戻せば、宥める様な手付きが髪に触れその気味悪さに吐き気を覚える。 更に男が身体をずらしたお陰で彼越しに見える光景に、漏れそうになる嗚咽と肺から溢れる淀む感情は村尾にただ不快感を与えるだけだった。 背後から別の男に陰茎を押し入れられている金海は、前後に動く身体を腕で踏ん張りつつ壁に額を付けてまるで土下座のような姿勢で辛そうに喘いでいる。だが更に手の空いた男が焦れた動きで彼の髪を掴むと、持ち上げだらしなく開いた口に半勃ちになっている自身の陰茎を遠慮無く突っ込んだ。噛ませない為であろう。鼻を摘まれ呼吸を制限された金海は、苦しそうに口の中の陰茎に舌を這わせた。 「んーっ!ふぅっ、ふっ、ふ、は…っ」 「ちょっと、会長さんちゃんと咥えろよー」 後ろの男の激しい動きのせいか、すぐに口から零れ落ちたそれを残念そうに見つめながら男は金海の頬を叩く。既に何度かの暴行を受けている金海の身体や顔からは青くなりつつある痣が浮かんでいた。 それでも尚美しさをその面に乗せた彼は何時もと変わらない醜悪な笑みを浮かべて男を見上げる。 「はっ、あ、んまりにも小せえから、すぐっ、零れちまう、ん、だよ…っあ!あっ、ぅん!」 後ろで彼を揺すり上げる男が、会話中に腰を乱暴に掴むとその動きに勢いを付けて腰を振った。何度か肌と肌が打ち付け合う音の後に射精が終わったのだろう規律的な動きが止まり金海の身体に凭れ掛かって休憩を始める。 「…やっば、マジ意味分かんねー」 「お前あんま腰振らせんなっつの。マグロとか俺ヤだかんな」 そんな男を別の男が顎を刳って移動する様促した。渋々離れる男が引き抜いた金海の肛門からは透明にも白にも似た精子が腿を伝う様に滴り落ちる。 代わりにと先程まで男がいた場所に膝を付いた別の男は、荒い呼吸を繰り返す金海の左足を掴み持ち上げると、引っ張られるままに横向きになった身体を持ち上げて自身の陰茎を収縮する肛門に押し付け挿入を始めた。 既に繰り返されているらしい行為のせいか濡れ切った窪みは難なく男の陰茎を呑み込みひくつく。男は陰茎を金海の内股に睾丸が触れるまで進めると、左足を肩に抱え小刻みに律動を開始した。 途切れ途切れの嬌声を上げる金海は、だがすぐにその顎を別の男に取られると持ち上げられ陰茎を強制的に含ませられた。嗚咽の漏れる声と荒い息、肌を打ちつける音と濡れた音が部屋に響く。 村尾はその光景を食い入るように見ながら、掠れた声を上げた。 「何…を…」 「え?ちょっとレイプしてるだけ?」 目の前にいた男が答え笑みを浮かべる。そして上を指差す彼に視線を上げると、脚立に設置されたビデオを確認して出そうになる反吐を飲み込んだ。 「一応これ証拠用ー」 楽しそうな声を上げる男は金海達の行為に参加する気がないらしい。立ち上がりビデオの確認をすると、村尾の腹辺りに腰をかけ凭れる様に背中を預けた。 男がいなくなったせいで、視界には金海に暴行を働く四人の男の姿が広がる。何時の間にか金海の口には二本の陰茎が押し込まれていた。睾丸が内股を叩く小さな音が耳から離れず、村尾は無意識に歯を食い縛る。 金海に口淫を強要していた男達は限界が近付いたらしい。少し離れると自らの手で陰茎を擦り上げ彼の顔や口に精子を落として不快感に眉を潜める金海を見ながら笑い陰茎を押し当てそれを塗りたくった。 そして陰茎を彼の中に抜き差しする男は、自由になった身体を持ち上げ右足も自身の肩に乗せると自身の片膝を上げ共に持ち上がった金海の下腹部を大きく掲げる。苦しそうに呻く姿を余所に、男はそのまま上から刺し込む様に先程よりも激しい律動を再開した。 「委員長さんも普段会長に虐げられてんだ、ろっ、良かったら見てけ、よっ!」 「っあ、…ぃ…っ!…っ奥、闇雲に当てるんじゃねーよっ、下手糞…っ」 舌打ちと共に吐かれた金海の声は、言い終わると同時に悲鳴に近い嬌声へと変わった。別の男によって強く握り込まれた陰茎は、立ち上がっていれこそすれ固さは不十分らしい。指の隙間から苦しそうに震える自身を逃がそうと金海は両手を伸ばすが、それを律動する男に取られ引っ張られると更に奥へと強く打ち付けられた。 「あーっ、ぅあ!あっ、あ…っ!」 「こんな時でもマジ生意気ー」 「つか二年の癖に何偉そうな口利いてんだよ」 「あっぐ、ぅ、っは、っぃ…あっ、あっ」 目に先程の精子が入ったのか、涙を漏らす金海の目は充血していた。休憩無く揺らされる身体に呼吸が追い付かなくなったのか口の端から涎が垂れる。それでも色香を失わない金海に煽られる様興奮を隠さない男達は、彼を次々に罵りながらも陵辱の手を止める事は無かった。 「はっ、何、んな物欲しそうな面、見せてっ、んだっ……っ…出すぞ…っ」 男の言葉と同時に緩慢になる動きはやがて治まりがついたように止まった。陰茎を抜かれる感触に身動ぎしつつ、金海は途切れる息の間で喉をくつりと鳴らし笑う。 「そりゃ…あんた等が…これ、見よがしに、ハァハァ、息荒げてっから…だ、ろ」 この状況で尚その姿勢を崩さない金海はそう言い放って唇の端を持ち上げた。取り囲む男達が息を呑む音が聞こえる。 村尾は目の前の状況を呆然と眺めながら、けれど目を逸らす事も無く食い入るように見つめていた。不意に金海の視線が自分の方に向いたような気がして気まずくなり視線を逸らす。 そこで漸く自身の陰茎も固さを作っている事に気付き後悔の念に捉われた。村尾に身体を預けていた男は気付いていたらしい。厭らしい笑みを浮かべながら落ちる視線に内心で舌打ちをする。 「なぁ、一緒に挿れようぜ」 次の男が金海をうつ伏せに転がした時、交代に焦れたらしい男がそう提案をした。あまり快く思わない男が眉根を潜める。それでも興奮治まらない男は必死で説得を試みようと言い訳じみた言葉を吐いた。 「さっきから…馬鹿じゃねーの」 そんな二人の会話を背中越しに聞きながら、村尾は大きく息を吐いた。前方にいた男が咎める様に髪を掴み引っ張り上げるが、見えた表情は陵辱されてる者とは思えない程醜悪に歪み笑っていた。 「ちげーよ」 「あ?」 「何であっちにも使える穴あんのに、使わーねんだって話だよ」 そう言って視線を向けたのは村尾の転がる方だった。かち合う目は淀み過ぎて何も映しておらず、村尾は恐怖を感じて思わず肩を震わせる。同時に向いた他の男達のギラついた視線以上に、金海の瞳はまるでタールのようにドス黒く汚れていた。 視線だけを向ける顔が滑稽に笑う。嗤う。哂う。 「俺みてーなデカいの相手に出来るぐらいなら、あいつも問題ねーんじゃねーの?」 そう愉快そうな声を上げる金海は、次いで「三人ぐらいだったら満足出来る程には俺が楽しませてやる」と追い討ちの様に言葉を続けた。金海程ではないが、村尾も均整の取れた顔立ちである事は自覚している。特にこの学園の特色の中容姿を理由に慕う生徒も多かった。 そんな狂った男に当てられたのか、一緒に挿入しようと提案していた一人の男が呼吸を荒くさせて村尾に近付く。反射的に身体を捻るが、何時の間にか腰掛けていた男がそれを制する様に動きを押え付けていた。上気した頬が元々この男は金海ではなく自身を好みとしていた事を物語っていた。 金海によって男に慣らされた身体とは言え、挿入される側に回る事は始めてだった村尾は顔面を蒼白にしながら請う様に自分を好きだと公言する男を見つめる。だが、彼は可笑しそうに声を上げて笑いながら村尾を見つめるだけだった。 そんな様子に男達から気狂いが、と罵られながらも咲う金海の目が哀しく細められ、微笑する。 「一緒に楽しもーぜ、ダーリン」 村尾は、この男の恋情が何を起源としているのか全く理解出来ていない事を痛感、した。 (*)back|main|next(#) → top |