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ソリアは走る、ソリアは走る・・・♪
背後からそんな歌が聞こえてくる。離れているというのにその歌は、まるで耳元で歌われているように声が離れない。
ソリアは逃げる、ソリアは逃げる・・・♪
ふといつもの通学路の風景を見て、ソリアは足こそ止めなかったが、引きつった呼吸を漏らした。
白煉瓦が自慢の町が、真っ赤に染まっている。
それだけではなく、いつも笑っておまけしてくれるパン屋のおばさんも、いたずらをして懲りずに何度も追いかけてくるおじさんも、ここに住み着いていた犬や猫さえも、赤く染まっていた。
ソリアは絶望してきれいな涙を流すのさ・・・♪
見慣れたすべてが赤く染まっている。動いているのはソリアと風に吹かれた落ち葉と街道沿いに植えられた針葉樹だけだった。吐き気がする。しかし歌は未だやまない。
ソリアは希望、ソリアは絶望・・・♪
ソリアは生きて、みんな死ぬ・・・♪
ソリアは堕ちる、ソリアは・・・♪
そこで、歌はとまった。しかしソリアは足を止めずに振り返る。何も追いかけてきていない。
しかし、赤く染まった街はそのままで、みんながもういないという事実だけは変わらなかった。
振り返って、白い街のままだったらどれだけ良かったろう?
自分の白昼夢だったら、どれだけ。
とにかく、ソリアは屋敷まで止まらずに走り続けた。
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