36
ギルドナイトの用意した竜車の荷台で、ファイとレンは揺られていた。
ゲリョスたちとは泣く泣く別れ、カインは別の竜車に乗せられ先に行った。内臓にまで達していないとはいえ、やはり腹がぱっくり裂けたダメージは大きい。先に街へ帰り治療を受けるそうだ。
報酬の方は、犯罪者検挙協力と言う名目でギルドが出してくれるらしい。
深い倦怠感と沈黙が二人を包む。
しかし、その中に僅かな違和感があった。その違和感は二人がお互いに抱いている疑問から来ていた。
ファイはカインのことを、レンもカインの事が気になり、しかし沈黙に辟易していた。
言い出しづらいのだ。
しかし、意を決して口を開いたのはファイだった。
「…レン」
「え?何?」
「カイン…右目見えないの?」
右サイド死角からの攻撃に対応して見せたカインの動きにずっと疑問を持っていた。
もしかしたら右目は失明していて気配だけで物を探知できるのではないか?それがファイの考えだ。
しかしレンの答えは予想とは違うものだった。
「いや?そんなことなかったと思うぜ?」
「え…?」
「あいつのことあんまわかんねえからなぁ」
意味深に呟かれた一言にファイは無言で続きを促す。
「あいつさ、『白銀の日』に、雪山で拾われたんだ」
「『白銀の日』?」
「知らねえか?俺達の村って雪山の麓にあるんだけどよ、13年前に崩竜が5頭同時に暴れたんだ」
いわく、こうだ。
レン達の故郷であるマシロの村は数十年に一度の周期で幻と言われている崩竜の気性が荒くなり暴れ出すことがありそれを『白い日』と言う。
そして13年前に起きた崩竜の暴走が歴代最悪を誇る5頭同時暴走という日から『白銀の日』と言われるそうだ。
「…その日にカインが?」
「ああ、山頂で死にかけてたらしい。やたらと他人を威嚇して大変だったらしい」
「それでレンとあったの…?」
「まあ、そんな感じ。お袋と親父か引き取ってから家族同然に一緒にいた」
だから俺が知ってるのは5・6歳位からのカインだと言う。
「カインは自分のこと言わない?」
「言わない…つか言えないんだろうな。記憶がないらしいし、思い出させようとしたら頭痛いって言うし」
今はそっとしてある、そう言ってレンは黙り込む。ファイも思考に更けようと思った矢先、レンが唐突に口を開いた。
「ファイ、あのさ」
「なに?」
「すげえ聞きにくいんだけど…カインと二人きりん時、ちゅーでもした?」
その瞬間、レンの頭に拳が食い込んだのは言うまでもない。
[ 85/200 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]