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白濁する意識の中でカインは悲痛な声を聞いた気がした。
どこ?だれ?どうして?
どうしてそんなにつらそうなこえをだすの?
ファイは男につかみ掛かるカインの胴体に抱き着いて、足に力を込めた。いくらカインでも、全力で力を込めた自分には敵わない、ファイはそう確信していた。
胴体に回した手がぬるりとぬめる。やはり腹をやられていたかとファイは顔をしかめる。カインはまだ止まらない。
恐らく、ランナーズハイと同じ状態なのだろうとファイは考えた。
「カイン、もういいよ…止めよう?」
カインの背中に額を押し付けて、ファイは呟く。
ぴくりと、カインの肩が動いた気がした。
聞こえている、自分の声は届いている。
「これ以上怒らなくていい、だから」
だから どうか
「今は、止めて…!」
我に返って傷付く貴方を見たくないの。
ファイはぎゅっと腕に力を込めた。
視界がどんどんクリアになる。
鮮血が視界に入って、ああ、またやったのかと他人事のように思った。
ふと、何かが自分の身体にしがみついているのを感じ、首を少しだけ後ろに向ける。
見えた赤色は、炎のそれだ。
「ファイ…さ…」
カインの意識は急激に浮上し、落下していく。
激痛と寒気の中、ファイの声が聞こえて消えた。
身体から一気に力が抜け、倒れたカインを受け止めたファイは、一気に溢れ出た血に焦りを感じた。
このままでは、カインは出血によって呆気なく死んでしまう。
しかし、攻撃の手が止まったこちらを、村長達が待っていてくれる訳がなかった。
「死ねぇ!戦うだけしか能のない野蛮人がぁっ!!」
村長自ら、カインとファイに向かって斧を振り上げる。
咄嗟に動き出せないファイはカインを抱きしめる。せめて自分が盾になって、カインを傷つけないように。
初めて好きになった人を守れるように。
そんなファイの決死の覚悟は、徒労に終わることになる。
「じゃかあしいわゴルァァァァァァァァァァァァアァァァ!!!!」
そんな元気の良い声と共に、閃光がファイ達の後ろから炸裂した。
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