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ファイの考え通り、カインの腹には防具の隙間に滑り混んだシャベルによってつけられた致命傷があった。恐らく防具の内側とインナーは血で赤くなってしまっただろう。
しかし今のカインにはどうでもいいこととして処理されていた。
痛みが頭まで伝わらないほど混濁しているカインの意識は、ただ一つのことだけを考えていた。
(壊そう、壊そう壊そう壊そう壊そう壊そうこわそう コワソウ)
まるで、獣が腹が減ったから自分より弱い生物を補食しようと本能で思うのと同じように、カインは目の前の人間達を破壊対象として見たのだ。
視界がぼやける。知ったことではない。
それさえ無視出来てしまう程カインは破壊衝動からくる飢餓感を膨らませていた。
一人の男が、カインの右サイド死角から包丁を構え突っ込んでいく。数刻前にカインがゲリョスから喰らった攻撃の丁度逆サイドからの攻撃だった。
ファイは叫ぼうとして、声が消えた。
正確には声が出なかった。
カインは死角から入り込んできた男に一瞥もくれてやることなく、包丁を掴んだ手首を掴む。
男が走り込んできた勢いを殺さず片腕だけで持ち上げ、床にたたき付けた。過去形なのは一連の動作が早過ぎて見えなかったからだ。男が背中から打ち付けられ一度大きく痙攣を起こし動かなる。
そして、ファイは見た。
一瞬だった筈なのに、あまりに長く感じる程の時間。
カインの蒼海の様に青い筈の右目が、荒ぶれる吹雪の様な銀色に輝いていた。
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