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しかし、カイン達も無傷でという訳には行かなかった。
カインは顔に数発ですんでいたが、小柄なファイが狙われる。
頭から血を流しながらも男の背後に回り手刀をかます。
例え傷が浅くとも出血が多いのが頭部損傷だ。
出血で視界が半分潰れている上にくらくらする頭を立てつづけに狙われてファイはよろめいた。
そして、その隙を付かない程男達も馬鹿ではなかった。
一人の男がファイ目掛けてシャベルを振り上げる。
「死ねぇ!!」
「−−−−−−っ!!!」
ファイは襲い来るだろう衝撃に目をきつく閉じる。しかし、衝撃も激痛も来なかった。
聴覚だけになったファイの世界には戸惑いや困惑だけが伝わってくる。
そろりと目を開ければ自分の視界より遥か上に白銀が見えた。ああ、自分がしゃがみ込んでいるんだなとファイが理解できたのはカインの後頭部が俯瞰(ふかん)に見えたから。
そして、視界を下に下ろして、ファイは息を詰めた。
自分の髪の色が、カインには酷く似合わない色が水溜まりを作っていた。
今のファイの位置からではカインが一体どうなっているのかわからなかったのだが、血が滴り落ちている時点でカインが自分を庇い怪我をしたのは間違いないだろう。
「カイ、ン…」
「…」
小さな声でカインを呼ぶも、カインはなんの反応も返さなかった。
沈黙していた白銀が、唐突に揺れた。
ずりゅ、と気持ちの悪い水音と共にシャベルが引き抜かれたと同時に、カインはシャベルの柄を掴み真横一文字に凪ぐ。ぶぅんと言う音がして、一瞬だけ旋風が巻き起こり男達の髪を舞い上げる。
牽制のつもりだったのだろうが、今のカインからは存在するだけで人を殺せる空気が漂っていた。
腕に怪我は見られなかったカインからは、ぽたぽたと短い感覚で血が滴る。どこを怪我したのか考えかけ、ファイは顔から血の気が引いた。
「カイン…まさか腹…!」
「ごめん、ちょっと黙って」
冷徹な声がファイの鼓膜を静かに叩く。声を出した、それだけの行動しかカインしていない。なのに、ファイは背中に走る悪寒を止められなかった。
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