D×D Bypar | ナノ




8

千年昔の、今となってはただの物語なのかも真実なのかも分からない。

世界は文明発達こそしていなかったが人と竜が命と誇りを賭け、武器と爪牙を交えていた今よりも力というものが絶対に近かった時代。人はモンスターに近く、モンスターは自然により近かった荒々しくも美しき時代。

ある男が三体の『運命』を司る竜の存在を知った。
男は喜んだ。もし彼らを捕らえ運命を自在に操れたならば、未来は更に輝かしき物になるであろうと。
しかし、純粋に人の繁栄を望んだ男の願望は無残にも打ち砕かれる。

男は古き城にて三つの運命との邂逅を果たす。しかし、彼が望んでいた物と彼らは全くの別物だった。赤き竜は焔のつぶてを降らし、黒き竜は燃えた大地に破壊の限りを尽くした。そして彼らの長の白き竜は聖なる白き稲妻を降らせ、世を粛正した。

男は嘆きと後悔の中で絶命していった。
しかし三つの運命は破壊と粛正を繰り返し続けた。人々は嘆き、生き物達も皆苦しんだ。世界が絶望に覆われ、光も何もかも消えてしまわれたかに思えた。



そんな時だった。ある一人の青年を筆頭に狩人達が武器を手に運命に立ち向かった。彼らは絶望の中に自分達の力さえ見失っていた。それを少年だった青年が思い出させた。そして時が満ちるのを待ち続けたのだ。
しかし運命の竜達の力は強大過ぎた。倒れ行く同胞達に青年は心を痛めながらも戦った。それでも竜達が弱る気配もなく、青年は力尽きようとしていた。
さだめに人は叶わぬか、そう諦めかけた狩人達に、奇跡が起こった。
凍土から、森丘から、大海から、砂漠から、密林から、数多の生き物達が向かって来たのだ。狩人達は最初、人間を滅ぼしに来たのだと絶望のどん底に落とされた。しかし違った。彼らは人間と敵対しに来たのではなかったのだ。
弱き生き物達は必死に傷付いた狩人を群れの中に庇い、強き生き物達は果敢に運命に立ち向かった。
強大な力を誇る古き龍達は、自らの力で新たな破壊を生まぬ様、その様子を見守り、自然の力を用いて彼らを支えた。
その光景に狩人達に希望が見えた。あるものは自らを庇い傷付いたモンスターを癒し、あるものはモンスターと共に運命に刃を向けた。

青年は涙した。生きたいと願う思いは人もモンスターも変わらないのだと。こうして力を貸してくれている彼らに敬意を表したいと彼は再び剣を取った。

と、彼の横に一頭の飛竜が舞い降りた。空の王者−火竜・リオレウスだった。
彼は青年の前で屈み込み、背に乗せた。
誇り高い王までも共に戦ってくれる。その事実に青年は心から感謝したという。
空に舞ったリオレウスは火球を避け、破滅の吐息をかわし、裁きの雷を己が炎で相殺した。
青年は王の背で剣を振るった。額、胴、脚を切る。堅い鱗も甲殻も切り裂いて、青年はひたすら剣を振り回した。


最初に倒れたのは赤き竜だった。青年の切り付けた胴の傷に、海竜が雷を放ったのだ。傍らには笛を手にした狩人が穏やかな顔で息絶えていた。

次に力尽きたのは黒き竜だった。青年の付けた脚の切り傷に迅竜と轟竜が最期の力を振り絞り前脚をたたき付け脚を引きちぎり転倒させ、狙撃手の龍を殺す弾丸を両の目に撃ち込み倒した。迅竜と轟竜の死に顔はどこか誇らしげだったという。



白き竜は怒りを露に粛正を行った。数多の命を奪い悲しみを生み出した。しかし、青年と火竜は屈しなかった。
火竜の渾身の炎が白き竜に向かう。それを耐えた白き竜の額に、火竜の炎を纏った青年が刃を突き立てた。

三つの運命は倒れた。世界は再び光と闇の生み出す色に染まり、モンスター達も狩人達も生きるべき所へ帰っていった。

後には火竜と青年だけが残された。

青年は火竜に誓いを立てた。

もし、またこのようなことがあるならば、人は竜に手を差し延べよう。だから、どうかその時まではよき好敵手でいてくれないだろうか。

この度の出来事は自然の理を無視してしまう危険なことだと青年は考えたのだ。火竜は同意した。彼も同じことを考えていたのだ。名残惜し気に頷いた。

ならば、狩人とモンスターがひとつの場所にいて成すべきことはひとつだけ。


青年は大剣を手にし、火竜は牙を剥き唸る。牙と刃が交わって−−−−






彼らのその後を、誰も知らない。



[ 47/200 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -