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忌ま忌ましい。イャンクックは思った。
今ここは自分のテリトリーで、支配権は自分にあるはずだ。
しかし、なんだこいつは。
真似る以外芸がない奴が何故ここにいる?
ああ、忌ま忌ましい忌ま忌ましい。
しかし、更に忌むべき展開がイャンクックを待ち受けていた。
「はあっ!!」
白い毛のニンゲンが、奴と自分の間に割り込んできたのだ。
カインは必死だった。殺気立っているイャンクックとクルペッコの縄張り争いに突っ込んでいくというビギナーなら絶対やらない無茶をしでかしている上、明らかに自分に向いた殺気を受け流す術を持っていないからだ。
心臓が、鷲掴みされた感覚とはこういう事なのだろう。
そう思う反面、カインの頭の一部は嘲笑していた。
(なんだ、この程度なんだ)
冷静に驕り高ぶった思考をしている自分に戦慄を覚えながら、カインはバスターブレイド改を横に薙ぎ払う。切っ先がイャンクックの嘴を掠め、悲鳴上がる。
カインはそのまま勢いを殺さずに、遠心力で動いている上から更に体重をかけ背後のクルペッコの腹を切り付ける。
こちらも掠めただけだったが、それは全てケビンの想定範囲内だった。
レンのチェーンブリッツから弾丸が発射される。
着弾したのはイャンクックだ。
ショッピングピンクの派手なインキが付着する。
「カイン今だ!投げろ!」
ケビンの鋭い声には応じず、カインはほとんど本能に近い惰性的な動きで拳大の大きさの物をイャンクックの顔面目掛けてぶん投げる。
「クアァア!?」
ぶつけられたそれに悲鳴を上げ、イャンクックは飛び去った。
「ふう、調合頼んどいてよかったぜ…こやし玉」
「自分でしろよ」
呟いたケビンにレンが突っ込む。冗談は、そこまでだった。
火打ち石を鳴らしながらクルペッコが二人に突っ込んで来たからだ。
ケビンもレンも、前転で回避する。
「レン、そのまま狙撃ポイントへ向かえ!」
「おう!」
レンが全力で走り去ったのを見届けて、ケビンは角槍ディアブロスを構えクルペッコの真正面に立つ。
怒り狂っているクルペッコは二人の介入者に気を取られ、もう一人の存在を忘却の彼方へ追いやっていた。
「うおおおっ!」
両手で構えた大剣を、カインはクルペッコ目掛けて振り下ろす。
しかし、今度は切っ先がクルペッコを掠めることはなかった。
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