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片手でアイルーの喉を撫で、もう片方の手でパンをかじっているファイを、カインはこっそりと横目でみた。
間違いなく、自分が会いたいと思った人。
今だに信じられない。自分の憧れが、今目の前にいる。自分が、本当の意味でハンターを目指すきっかけとなった人が。
彼女に会う以前のカインは、ただ何となく、レンがやっていたからやってみたというレベルでしか狩りをしていなかった。力も求めず、ただ単調に命を狩り、剥ぎ取る作業を繰り返していたカインを、ファイは力で根底から払拭した。
隣でケビンとレンが話ながら食事をしているのをBGMに、昔は残忍な奴だったなとカインは自嘲気に腹の中で哂う。ただ狩る、それは命に対する侮辱でしかない。しかしファイの太刀には、敬意すら写って見えた。だからだろうか、こんなにも彼女に焦がれたのは。
「…食べないのか?」
「へ?」
ぼんやりとしていたカインが気になったのだろう。パンを片手にファイが覗き込んでいた。ちらりと視線を下にずらすと、アイルーも自分をじいっと見つめていて、カインはなんだかいたたまれなくなる。
それを知ってか知らずか、ファイは自分の目の前に置かれていた籠からパンをひとつ取り出すと、カインに突き付ける。
「どうぞ」
抑揚のない声だったが、突き付ける手は優しいもので。カインはなんだか考え込んでいる自分が馬鹿みたいに思え、ファイの好意を有り難く頂戴したのだった。
「…珍しい物をみたな」
「へ?」
「いや…青春してるなぁと思ってな?」
疑問符を飛ばすレンを尻目に、ケビンはなんでもないさと嬉しそうに笑った。
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