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「おーい、こっちだこっち!」
手を振っているケビンは酒場のかなり奥の席にいた。相席を頼んだのだろう、もう一人、小柄な人物が座っていた。
一つに結い上げられた髪は微動だにしない。しかし、そんなことはどうでもよかった。
カインは自分の中から全ての音が消えたと感じた。それ位驚いた。
忘れない、忘れられるはずのない色がそこにあったから。
記憶のものと全く変わらない、鮮やかな深紅。
そんなカインに気付かずレンはケビンに手を振り返し、そのままカインの手を引いて席へ向かう。
一歩近付く度に、カインの中に一つの不安が鎌首を擡げ始める。
(あそこにいるのは…あの人なのか?)
何しろ数年前の話なのだ。もしかしたら自分の記憶違いなのかもしれないのだ。
そうであって欲しいと思う。一目でいいから。
−−−−−会いたい
そして、その人物のすぐ後ろまできた。
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