D×D Bypar | ナノ




20

―――――――――いたい、よう
―――――――――他の崩竜に抉られ、ぽっかりと空いた眼窩に、自分の額に眠っていた崩天玉を、埋めて死にかけた父に。何度もありがとうとごめんなさいを繰り返した。

「とう、さん」

か細い、あっけなく掻き消えてしまいそうなカインのその声が聞こえたのだろうか。
ウカムルバスは一瞬動きを止めた。月色の目が、カインが家族と愛した目が、そこにある。
その月色の中には、右半顔から血を垂れ流し、情けない自分の姿が映っていた。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

振り切るように、ウカムルバスが咆哮する。後ろ脚がちぎれそうにも関わらず、凄まじい勢いで突進してくるその顎に、カインは再び刃をふるった。
嫌な音をたてて勢いよく欠けたのは、カインの刃か、ウカムルバスの顎か。
それとも、双方の心の方か。

刃をふるう。尾がちぎれ飛ぶ。
前足を振り上げる。勢いよく弾き飛ばされてあばらが砕ける。
雪中から潜り込み突き上げれば天から刃が降ってくる。
小競り合う。刃が、爪が、欠ける。筋が、肉が、骨が悲鳴を上げる。

心が、死ぬほど痛かった。

分かってた。全部わかってた。
相容れるはずがない、この道にいれば、いずれは狩るか狩られるかなんて。
分かってて拒絶して、目を背けたのが、この結果。



でも、でもせめて
小さくても偽物でもよかったから

――――――――――――――――――――――父さんと一緒に生きられる未来(きぼう)が欲しかったよ。



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