12
翌日、四人はマシロの村から離れた雪原を目指し雪を踏みしめていた。
ファイは相変わらずよくこけたが、手を貸しこそすれ誰も笑わない。ファイ自身も自分が雪上を歩くのは苦手なことは前回の件でよく分かっているのでもう羞恥心も沸かなかった。
あたり一面は白、白、白。命の鼓動さえ聞こえない冷酷な白だけが日の光を乱反射して煌いている。昨日の話のとおりだと、ファイはぼんやり思った。
しかし、ここまで何もないといっそすがすがしい。だからといって緊張の糸は切れないわけだからいやに疲れる。
「・・・おかしい」
「?」
唐突にケビンが呟いたので、ファイは何が?と言いかけてやめた。
恐らく、ケビンは気づいたのだろう。この空間の異様さを。
何も、いないはずなのだ。それなのに、なんだ。
なんなんだ、この威圧感は。
「下だ!」
突然、カインがそう叫ぶ。三人はとっさにその場から飛びのいた。その一瞬跡だった。
分厚い雪を粉砕して、それは唐突に四人の前に現れた。
まるで、山のような巨体に雪より白い純白、目の色だけはうっすら金色に色づいて、月のようにも見える。スコップのようなアゴに、万物全てを踏み潰せると思えてしまうくらい太く、大きな足。
崩竜、ウカムルバス。
恐らく、観測所がいっていたとおり最大級なのだろう。ケビンが確認した書斎の情報より遥かに大きかった。その額には傷が入っている。恐らく13年前の名残だろう。
ファイ、ケビン、レンは各々得物を構える。しかし、崩竜は三人に見向きもしなかった。
月の双眸は、カインを凝視していた。カインも、ウカムルバスを凝視していた。
「ーーーーーーーーーーーー」
カインはウカムルバスに呟いた。ケビンは、聞いた。聞こえてしまった。
どういうことだ、と叫ぶ前にウカムルバスの前足がカインを襲う。カインは避けられなかった。避ける動作さえしなかった。
軽々と宙を待ったカインの体を、ケビンはぎりぎりで受け止める。その間にファイとレンがウカムルバスを牽制していたのだが、まるで興味がないかのようにウカムルバスは踵を返してさらに奥へと行ってしまった。
「おっさん!!カインは!?」
「大丈夫だ!それより一回もどるぞ!」
「なぜ?」
ファイとレンの訝しげな視線を受けながら、ケビンは意識のないカインを、半ばにらみつけるように見下ろした。
「こいつに、色々聞かなきゃならんことができたんでな・・・!」
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