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同時間、ファイは秋野に呼び出されていた。
「お嬢ちゃん、あんた美船さんが言うとった子じゃね?」
「え・・・」
「わし、美船さんとはべすとふれんどでの。今も手紙で交流を深めとるくらい仲良しなんじゃよ〜。その手紙にようあんたのこと書いておるでの、一度会って見たかったんじゃ」
「はぁ・・・」
こんな深夜に呼び出しておいてそんな話なのか?とファイが疑問に思っていると秋野は朗らかに笑っていた顔をす、と引き締める。
「・・・太刀を、使っとらんそうじゃが」
「!・・・はい」
「美船さんの教え子じゃろ、しかもただ一人綾小路美船の業のすべてと真髄を受け継いだ」
「それが、何か」
「生き残るすべを、ひとつ捨てとるの。なぜ使わん」
「・・・なぜ、今それを」
一人の老婆と一人の娘の会話とは思えないほどの淡白さだった。秋野はそうでもないが、ファイの声と表情からは完全に感情が消えている。
「・・・明日が、『白い日』じゃからの」
「それで、何で太刀を使う使わないの話なのですか」
「・・・白とは、実に奇怪な色じゃと思わぬか?」
「は?」
唐突な話題の変化にファイはとうとう頭を抱えたくなった。そんなことを話されるくらいなら明日に備えて眠りたいのに。
そんなファイの心境を、おそらくこの老婆は分かっているのだろう。分かっていて引き止めるなら、なぜ核心に触れない?
「自らの存在を主張せぬのに他の色をこれでもかといわんばかりにさらけ出してしまう」
「はぁ・・・」
「時に、他の色さえ塗りつぶしてしまうほど強力な色だというのになぜかのう?」
「すみません、質問の意味が・・・」
「・・・白はな、さらけ出すんじゃよ。見たいもの、見たくないもの、隠してあるもの、知りたくないもの全てをな。『白い日』とは、そういう意味合いも含んでおる」
「・・・」
「明日見えるのは真実と、露見しなかった脆さ、弱さ、愚かさじゃろう。しかし、おぬし達がもし明日失敗すれば逆に塗りつぶされるのは想いと命じゃ」
「・・・・・・」
「ま、前者を選ぶか後者を選ぶかは主らの自由じゃ、こんな老いぼれが決めることじゃあないさね」
さて、あんたはどっちを選ぶんじゃろうな。
言いたいだけ言って秋野は奥へもどっていってしまった。ファイは一人、呆然と立ち尽くす。
前者か、後者か。愚問だ、考えるまでもない。
「・・・塗りつぶされて、たまるか」
しかし、ファイは知らない。弱さを露見されたときの、衝撃を。
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