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一刻ほどして到着したマシロの村で、悲劇は起きた。
「こンの、糞餓鬼がぁぁぁぁっ!!」
老婆の怒号が起きた瞬間、レンが遥か後方へ吹き飛ばされた。両サイドに立っていたケビンとファイがまったく反応できないほどの速度だった。
レンも、悲鳴さえ上げられなかった。ごろごろと転がって岩に激突してとまった。
そんなレンの目の前に仁王立ちした老婆はまさしく鬼の形相と呼ばれるにふさわしい顔でレンを睥睨していた。
「勝手に出て行ったばかりか連絡も遣さずしかも突然帰ってくるなぞ無礼千万じゃ!この青二才が!!」
「いってぇぇぇぇ・・・・!!糞、何で俺だけ・・・いでっ!あだぁっ!」
「カインはちゃーんと連絡は寄越し取ったわい!勝手に言ったことも謝罪しとる!」
まるで嵐のようなやり取りに二人はついていけない。と、老婆は二人を見た。その形相に思わず喉の奥から悲鳴が出そうに成ったが、よそ者にいきなり怒鳴りかかる事はさすがにしなかった。
「おぉ、この馬鹿とそこの阿呆と一緒に来てくれたハンターさんじゃな?紹介が遅れたの、わしは橘秋野。このマシロの村の村長をさせてもらっとるよ」
「あ、ケビン=ディクセントといいます」
「ファイリアス=エリンシェン・・・です」
先ほどとのギャップに思わずたじろぎながらも頭を下げた二人にご丁寧にすまんねと秋野が笑う。竜神族の美船より年下だろう秋野は、優雅と言うよりは凛としておりあまり年齢を感じさせない。先ほど二人をまっすぐに見た紫煙の瞳も生への活力が漲っていて下手をするとサウィナズスの引退したハンターより若く感じる。
ファイがそう思っていると、秋野の目がカインの方を向いた。目が合ったカインはお久しぶりですと呟いて一礼するとふっと明後日の方向を向いてしまった。
秋野の逆鱗に触れないはずがない。
「この礼儀知らずがーーーーっ!!」
「いたっ!」
秋野の拳がカインの脳天を捉える。見ていたケビンとファイの方が痛くなる位の見事な拳骨だった。
「なーにをぶーたれておるのじゃ!おぬしはレンよりかは物分りがいいと思うておったがわしの検討違いか!わしより年食った見たいな顔しおって!」
「・・・すいま、せん」
「あぁん?なんじゃあその言い方は?まるでなんかなやんでまーす、な感じむき出しじゃ」
「・・・すいません」
「謝れば済むと思っとるんかい馬鹿たれが!」
「あいたっ!」
再び脳天を捉えた拳骨にさすがのカインも頭を抱えうっすら涙を浮かべていた。
そんなカインを見下し秋野はふんと鼻を鳴らす。
「そんだけぶったらおぬしの悩みも忘れるじゃろ。いつまでもぐずぐず引っ張る必要はないじゃろう」
「・・・はい」
消えそうな声でそう呟いたカインに、これは重病じゃと呟いて秋野は再びケビンとファイを見た。
「ともかく、ここでは冷えるじゃろ。中に入りんしゃい。火をくべておるでの、ここよりマシじゃろうて」
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