10
一方キャンプでは、トモが腕の応急処置を終えていた。後ろの簡易ベットでは意識のもどらないメルが横たわっていた。
身じろぎしないメルを見ながら、トモは立ち上がる。
「・・・この超怒級大馬鹿のこと、頼むね」
近くに控えていたアイルーにそう告げると左手でスラッシュアックスを引っつかみ、走り出した。
接戦、とでも表現すべきなのだろうか。
ファイとナルガクルガは、そう。表現するなら肉と骨の削りあいだった。
お互いにぼろぼろだった。ファイのナルガ装備はほとんど原型をとどめておらず、ナルガクルガも右目がつぶれ、鱗や毛が削げ落ち赤い肉がむき出しになっていた。
それでも、お互いにやめることはなかった。
ひたすら屠り合う。手が、足が、止まらない。
罅が入り続けている太刀を見ながら、ファイはじりじりと焼け付くような感覚を覚えていた。早くしてくれと、願うがごとく。
砕けていく爪を見ながらナルガクルガは眼前の敵の隙をうかがっていた。いつでもその細い喉首を噛み砕いてしまえるように。
機が熟したのは、ファイだった。
自分の中で何かが満ちる。それは俗に「錬気」と呼ばれるものだった。
ハンターの中には双剣と太刀、ハンマーといった武器に気をまとわせ、攻撃力を挙げることが可能な技術がある。ファイはそれを体得しており、行かせる剣術も持っていた。
「うぉぉぉぉ・・・!」
ファイの口からうなり声が上がる。刀身が赤く輝き揺らぐ。ファイは腰を一気に低く落とした。
そして、一閃。
「オオオオオオオオオオオッ!!!」
初撃の一閃では終わらなかった。
切り上げられた刀身はそのまま下へ振り下ろされ、今度は真横一閃、反対位置からさらに切り上げ、真下へ落ちる。
気刃切り、と人は呼ぶ。
錬気をまとわせ相手を切り裂く、美しく冷酷なこの技は非常な精神力と技を持ってなくてはできない。心技体を象徴した剣技は、とまることはしない。
たとえ、眼前のナルガクルガの尾が振り上げられていたとしても。
(必ず、倒す!)
肉を切らせて骨を絶つ、それを実行するために太刀を振り上げたのだがーーーーーーーーーーーーーーー
「そぉぉいっ!」
「え?」
そんな声とともにファイの体がふわりと宙高く舞う。
状況が分からないファイの視界に入ったのはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ファイが受けるはずだった尾の一撃を直撃でくらい、アイルー達に搬送されているトモの姿だった。
つまり。
トモ、ファイのピンチに駆けつける→ファイ一撃くらいそうだ→庇うつもりでスラッシュアックス当ててファイをアイキャンフラーイ!→ほっとしたら自分が食らって三落ち目☆
「なんじゃそりゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
唖然と見送るナルガクルガを視界に入れながらも、ファイは叫んだ。
地面にたたきつけられ意識はフェードアウト。当然、クエストは失敗だ。
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