23
「うわあ・・・」
「すげえ・・・」
カインとレンはその場に呆然と立ち尽くした。
前夜祭前とは比較にならない人の波に、呆然と立ち尽くす以外やることが思いつかないのだ。屋台からはおいしそうな匂いや珍しい品などがならび、心踊るはずなのにそれでもカインとレンの意識は悲しいかな、人ごみに向いていた。
結局、エルベが機転を利かせてくれたおかげで収穫祭そのものが一日ずれ、もちろんケビンはエルベにこてんぱんにのされていた。帰ってきて早々ケビンと何故かファイが連れて行かれ、残ったカインとレンは酒場でぼんやり過ごしていたのだ。
酒場も祭りの雰囲気に呑まれ、早い時間だというのに既に出来上がっている者もいる。
だが先ほどリオレウスと一戦交えた二人はとてもそういう気分になれず、ちまちまと軽食を取っていた。
「なあ」
「何」
傍から聞けば喧嘩しているようにも聞こえるが、二人は別段いらいらしている訳ではなくただテンションが上がり切らないときのトーンなのだ。純粋に。
そんな周りのテンションからかけ離れた空気のまま、レンは続けた。
「・・・俺たち、リオレウス倒したんだよな」
「うん、多分」
「お前もそう思う?」
「そりゃあんなのでてきたらね。実感なんか掻き消えるよ」
「だよなあ・・・なんか、思ったより感動ねえや」
そうだねとカインが続けようとして、止まった。
正確にはとめられた。
「カイン君!!」
「はい?」
「君ここで何してるの!?」
「夕飯ですけど」
突如として飛び出してきた(比喩ではない、本当に文字通り飛び出してきたのだ)エルベにレンはぎょっとしたがカインはローテンションで受け答える。どうやら本気で疲れているらしい。
しかしエルベには全く構った事ではないらしく突然カインの腕を引いたのだ。
「うわっ!」
「ほら早く!取られちゃうし始まるわよ!」
「な、何を・・・っ!?」
そのカインの疑問には一切答えずずるずると引きずっていったエルベを、レンは唖然と見送るしかなかった。
後には、冷えて味の落ちたファンゴの敲きが寂しく残っていった。
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