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穏やかな波に揺られながら船が進む。どこを見渡しても青一色の光景は時折姿を見せるエビオスによって表情が代わる。
「ほんと、海って広いなぁ…」
そう感慨深げに呟いたのは穏やかな風貌を今見ている大海と同じ色の瞳で飾り、肩までの短い銀髪を揺らす青年だ。
名はカイン。
背に担いでいるのは大剣で、ハンターであるのは間違いない。
しかしそのおっとりとした容姿と性格からはとてもハンターを生業としている者とは思えない。
まるでアプトノスだと比喩される事もしばしばある。
「アホか、海が広いんじゃなくて陸が狭いんだよ」
と、カインの感想を馬鹿にする者がいた。しかしカインは気を悪くするでもなく成る程、そういう考え方もありかと納得した。
青い短髪は海より深く、不機嫌そうな眼は黄金という珍しい配色の人物にカインはからかい混じりに声をかける。
「レン、もう船酔いは大丈夫なのか?」
「うるせー」
眉間に皺をよせ更に人相の悪くなった幼なじみ、基レンにカインは笑う。
そして、ふと真剣な顔をする。
「…かなり遠くまできたよね」
「まあな」
「勝手に村を出て後悔はしてないかい?」
「別に。自分で決めたことだしな。そういうお前はどうなんだよ。土壇場で一緒について来て」
「後悔はないよ。…ただ今頃オババ怒り狂ってるんだろうなーとか思ってみたりするけど」
うげ、とカエルが潰れたような声を出したレンにカインは苦笑する。
村を出たのは本当にノリのようなものだった。しかし後悔や帰りたいと言った気持ちは不思議とカインの中にはない。
それ以前に希望さえ沸いていた。
(あの人に、逢えるかもしれない)
レンのように大物を倒して名を上げたいとか、更なる強さを求めようとかはない。ただ純粋にある人物に逢いたくて村を飛び出して来たのだ。
きっと、自分の事など覚えていないだろうけど。
そんなカインの心中に答えるように、船の到着を告げる汽笛が鳴り響いた。
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