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そんな一族には、妙な風習というか、宗教があった。
”荒ぶる神を讃えよ”
内容はそのままだ。要はアラガミを絶対の神として崇拝する。それだけだ。
ゴットイーターに食われたアラガミの残骸を見て嘆き、生きたアラガミを褒め称え、生贄と称してどこからか攫ってきた人間を餌として捧げた。
ファイは10年間、その光景を見たことがないほど見ていた。そして、どうしても殺しきれない感情が鎌首をもたげたのを自覚していた。
憎悪。そして憤怒。
どろどろとマグマのように煮え詰まったその二つの感情をファイはいつももてあましていた。というのも愚かにも彼女は、自分に対し人として扱わない一族を愛していたからだ。だからどんな行いが目の前で繰り広がろうとも、そのどす黒い感情を表に出すまいと必死になった。
でも、どうしても一族の行う儀式の暗示のようなものには従えなかった。
”杯をもて 人を捧げよ 祈りを持って 神を讃えよ”
これを聞くと、どうしても抑えている感情が爆発しそうになる。だからファイは、この言霊を改竄したのだ。
”刃を握れ 牙を殺げ 憎悪を携え 神を殺せ”
それが、催眠術と呼ばれる類であったものだと知るのは、もっと後の話だ。
とにかくファイはこのころからアラガミが嫌いで憎くて疎ましくて、邪魔だった。
乗算されていく憎悪と憤怒を押しとどめながらファイは淡々と時を過ごした。
そう、あの日が来るまでは。
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