クレイジーイーター | ナノ




7

メティア、それはアラガミによって荒廃した世界になおも轟く美術一族の氏名だ。

数多の美術品を生み出し、音楽を作り出し、はたまた己自身が舞い美術品となる「芸術」と名のつくものならば全て己が技術としてきた一族。
ファイはそこの家の一番下に生まれた。しかし、彼女の誕生が、正確には彼女の容姿がメティア一族の心を歪めたのかもしれない。
金髪碧眼の血統を誇るメティアに、赤い髪と緑の目を持つ子供が生まれたのだから。

容姿からくるいじめや差別は、日常茶飯事だった。

「こっちにくるな!気持ち悪い!」
「血まみれ人形!」
「化け物の目、ああ気味が悪い!」

記憶がはっきりしてきている3歳の時から10年間、毎年毎日毎時間毎分毎秒言われ続けた。
会う人間、父母兄姉姉兄叔母叔父祖父祖母使用人。全てが彼女を虐げる「敵」だった。
しかし、美術家としての能力と才能は、それこそ居もしない神が与えたもの。そう表現する以外ないほどに優れていた。
だが、優れた能力はファイを助けはしなかった。
むしろ、嫉妬や妬みの格好の的になったのだ。
ファイは、自分の感情を無視することを覚えた。他人を認識しない術を学んだ。他人から感情を求めることも自分から感情を発することも諦め放棄した。そうしないと生きていけなかったからだ。

熱した半田鏝を押し付けられても悲鳴を上げることを放棄した。
投げつけられた彫刻刀の刃が頬の肉を抉っても泣き出すことを諦めた。
唯一、愛した母に笑いながら「愛している」と言われながら首を絞められて、助けを請うことを、助けてと悲鳴を上げた感情を問答無用で殺した。
それが、ファイに許された唯一の生きる術だった。



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