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『ありがとね』
オレーシャのそんな台詞を背中に受けながらファイはふんと再び鼻を鳴らした。
そんなファイにかまわずオレーシャはぽつりぽつりと呟きだす。
『あれ、二人だけじゃなくて私たちのためにも言ってくれたんだよね』
「違う、雑魚の遠吠えが耳障りだっただけだ」
『でも、それでも私たちのこと考えてくれたでしょ?』
沈黙したファイに三人は笑う。笑って、ヨハネスは真剣な声音で言う。
『勝手だと、無力な私達の勝手な願いだと思う。ソーマを・・・アナグラの皆を守ってやってくれないか』
それは、酷く神聖な祈りにも似た響きを持って、ファイを振向かせる。エリック、オレーシャも真摯な眼差しをファイに向けていた。
『私達にはもう、彼らを支え、守る力もない。できても見守ることくらいだ』
『もう、触れることも伝えることもできないんだ。とても華麗じゃないことはわかっているよ』
『でも、君にはできるから。・・・君にしか、できないんだよ』
そう、切に願う彼らにため息で返せるファイはヒトデナシの部類に入る。自分でも自覚しているし自覚しているからといって改善してやるつもりもない。だから、どこまででもヒトデナシで。
「・・・わたしは、今とても血迷っている」
『・・・?』
「部隊長など、弱い人間や劣悪な人間の勝手な希望を背負わされ、今あまつさえ死人の希望も押し付けられている。いやはやとても窮屈で息苦しい」
『・・・それはすまないと思って・・・・・・』
「だが、その窮屈さが何を思ってか今はとても心地いい。大変血迷った思考だ」
『隊長さん・・・!』
「ふん、貴様等のその勝手な願いとやら引き受けてやる。その代わり、もしうっかりわたしが死んだときは死に物狂いでわたしを天国へ連れて行け。ああ、もう貴様らは死んでいるのだったな」
そんなヒトデナシの気まぐれに、代表してオレーシャが全身で感謝の意を示した。
ファイに抱きついてきた霊の体は、冷たいものだったが。
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