クレイジーイーター | ナノ




10

その日はとても天気が悪く、今にも雨が降り出しそうな空だった。

例によって散々嘘を撒き散らし帰ったミカドの眼前に、荒れ果てた室内が視界を強襲する。
何か、空き巣にでも荒らされたのかといわんばかりに散らかった家に、ミカドは顔が強張る。その原因は、アラガミか。それとも物取りか。
どちらにせよ慎重にと思ったミカドの思考は一瞬にして裏切られた。

荒れた部屋の中には、母が一人、ぽつんと座り込んでいた。泣いたのか、腫れぼそった目は虚空を写し、ミカドに一目もくれようとしない。その手には何か書かれた紙が力なく握られていた。

ぼんやりしている母の手からそれをそっと抜き取り内容を見たミカドは、自分が嘘つきになった理由を知った。

『風神 幸喜 全108件に上る詐欺及び恐喝、殺人罪として極刑に処す。尚、親族は被害金の約一割の返還ないし風神 帝の実験体提供を・・・・』

ミカドが目を通せたのはそこまでだ。
その紙切れを母が小ぶりで頼りないナイフで切り裂いたのだ。
そして、ミカドは母が壊れた瞬間を目の当たりにした。

「っ嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!!!!!!」

獣のような悲鳴に耳を塞ぐことも叶わず呆然とその場に立ち尽くすミカドに母は何のためらいもなく、ミカドの心臓目掛けてナイフを振り下ろす。


その瞬間のことは、実はミカド自身よく覚えていない。


ただ、自分の目を信じるのならば

自分は無傷で座り込み、喉に頼りない刃を突き立て痙攣する母の体が横たわっていたこと位だろう。



[ 60/105 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -