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「……俺の父さんは、コウタ君も知っての通り元詐欺師だった」
「元?」
「俺が生まれた時にはもう引退して道化師になってたよ」
皆を笑顔にするのが好きな、面白くて優しい道化師。それがミカドの知る父だった。
「ピエロさん、きょうはなにをみせてくれるの?」
「んー、今日はねえ、綱渡りをしてみようかな」
わーっとはしゃぐ子供達と、楽しそうに綱渡りをしている父を見ながら、ミカドは母とその様子を眺めていた。誇らしさと、ほんの少しの嫉妬の入り混じった視線を父に送りつづけるミカドの頭を宥めるように母の手が撫でる。
母は今の時代には珍しい美容師と呼ばれる職に付いている人だった。人並みではあるが美人と呼ばれる類の人種で、なぜそんな母と父が結ばれたのか当時のミカド最大の疑問だった。
もんもんと考えるミカドの頭を、今度は母のしなやかな手とは違う、ごつごつした手がなでる。
「お父さん!」
「帝。ピエロの真似、するか?」
「うん!」
頭の上で器用にボールをいくつも乗せ、落としもしない父を見上げて、ミカドは楽しそうに笑った。
そう、この頃はただ純粋に楽しくて、父に道化技を習うこと、母に鋏の使い方を教えてもらうことがこの上なく幸せだったはずで。
しかし、今のミカドが思い出す限り、そんなありきたりな幸せさえ虚偽に過ぎないと思うのだ。
それほどに、ミカドの中で父が幾多の人間を欺きコウタの家族を騙したことが−−−−−大きかった。
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