クレイジーイーター | ナノ




3

それは、コウタらしかぬ冷たく攻撃的な台詞で、アリサはコウタを諌めようと口を開きかけ、やめた。
ミカドの口が、笑いの形に歪んでいたのを視界に入れたからだ。
ミカドはそのままくつくつと笑い、そして長い前髪の隙間から隻眼だけを動かしコウタを捕らえる。当のコウタはたじろぐこともなくじいっとミカドを見ていた。

「すごいねコウタ君。どこで知ったのさ」
「知るも何も、俺ってお前の父さんまで知ってるぜ?顔も、声も、偽名だろうけど名前だって覚えてる」
「へぇ、俺の父親知ってるんだ?」
「ああ、お陰で危うく俺の家族がばらばらになりそうだったからなー・・・忘れる訳ねえだろ」

途端に嫌悪をあらわにしたコウタに何も言えず、アリサはミカドを見た。ミカドは依然と口元の笑みを崩しもしない。しかし、その目はコウタの台詞に負けず劣らず冷たい。

「いったいなんの話を・・・」
「こいつの父さんが・・・最悪な詐欺師が俺の母さん騙そうとしたって話」

コウタの完全に凍てついた声がアリサの耳朶をたたいて反響する。
え?なんだって?とアリサは自分の頭の中で疑問をぶつける。
だって、ミカドも言っていたではないか。父親は大道芸人だと。

それを察してか、ミカドがとうとう笑い声を上げた。

「あはは!アリサさん、すっかり騙されてるね!」
「ってめぇ!!」

努めて冷静に対応しようとしていたのだろう。とうとうコウタが爆発し、ミカドの胸倉をつかみ上げる。しかし、当のミカドと言えば鏡のような目でコウタの行動を眺めていただけだった。

「ふざけんな!いったい今まで何人騙してきたんだよ!」
「知らないよそんなの。君は殺した虫の数を数えるのか?」
「てめ・・・っ!!」
「それと一緒だよ、・・・数えてるわけないじゃないか虫の数なんて!」

くくくくと喉を引きつらせるミカドと、今にも殴りかかりそうなコウタを見ていたアリサは、何かを決したようにコウタの手をつかんで引き離した。

「アリサ!?」
「・・・私は、私はあなたとあなたの父親が何をしていたか知りません」

非難の視線を送ってきたコウタを黙殺して、アリサはミカドを見た。見られたミカドは訝しげに首を傾げた。それが驚愕と拒絶に変わったのは次の瞬間だった。

「でも、私はあなたの心が嘘だなんて信じない」

ミカドが制止するより早く、アリサはミカドの手に触れる。記憶が、アリサの指先から流れ込む。




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