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しゃきしゃき、と軽やかな音が淡泊な室内に響き渡る。
コウタが興味深げに覗き込んでいる中、アリサの豊かな銀糸のような髪が少しずつ切られ、床に広げられたシートの上に落ちる。
時々手櫛でアリサの髪を撫で切った髪を払いながらもミカドの手は止まらない。
ターミナルで流しているクラシックは、最近では珍しい旧世代のCDの物で、柔らかい音楽に添えて踊るように鋏が動く。
その様子を鏡越しに見ながらアリサは銀色の鋏に魅入っていた。
シンプルながら、細かい幾何学模様が彫られたそれは、古いと分かるのに錆一つついておらず、成人男性にしては華奢なミカドの手に違和感なく馴染んでいた。
「はい、終わりました」
「ありがとうございます」
前回の約束を律儀に守る男にアリサは素直に礼を言う。髪が多くなって少し欝陶しいとサクヤにぼやいていた所、通り掛かったミカドが聞いて自分が梳こうかと名乗り出た際、近くにいたコウタも梳いてくれと頼んだのだ。
軽くなった髪を触りながらアリサはほぅと感心を込めて息を吐き出す。
「凄いですね…」
「そうだな、人の髪の毛切れるし器用だし」
「そんなことないですよ」
感心しきりの二人に苦笑しながらミカドはシートの上の髪を、ごみ箱へ流し入れる。
そんな様子さえ感心しながら眺めるコウタとは裏腹に、アリサは軽くなった頭を少し乱暴に掻き回す。ミカドの掌の温度が残っている気がしたのだ。
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