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そして、彼の母親が美容師だったということに非常に興味を持ったのだ。
「お母様が?」
「ええ。とても手先が器用で、やさしくて。息子の俺が言うのも変な話なんですけど人並みには美人でした」
「『でした』?」
「はい。美人『でした』」
にこりと笑うミカドの顔に、ほんのわずかに影が差す。しかしそれは瞬く間に霧散し消えうせた。アリサの頭にはしっかり残っていたのだが。
「・・・お父様は何をしてらっしゃったの?」
「父さん?ああ、大道芸人を。人を笑わせるのが好きな人『だったんです』」
話題を変えようとして悉く失敗したことを、ミカドの過去形での表現がアリサに突き刺さる。自分も自分のつらい過去を暴かれるのはいやなのに。それなのに、好奇心のが強く動いてしまった。
「変わった組み合わせですね。ミカドはお母様とお父様のどちらの影響を受けてるんですか?」
「俺は・・・母さんかな。人をきれいにする仕事って興味があったから。実際髪を切らせてもらったりしていたし。ああ、でも父さんの職業も好きです。しこたましごかれましたが体を動かすのは好きですし」
「へえ・・・お母様とお父様は元気ですか?」
聞いてしまった。
答えなどわかり切っているはずなのに。彼自身、一番言いたくないことのはずなのに。
それでも。
「死にました。アラガミにぱっくり食われまして」
彼は、へらりと笑ってそう答えた。
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