クレイジーイーター | ナノ




9

贄が、逃げた。

それはアラガミの徘徊ルートがメティア家付近に近づこうとしていた前夜の話だった。
彼らが贄に差し出そうとしていた人間が命からがら逃げ出したのだ。
当然メティア一族が蜂の巣をつついたように騒然となるのは当たり前で。
ファイは馬鹿らしいと思い古布に包まり再び眠りにつこうとしていた。しかし。

「そうだ、ファリィがいる。あれならば荒ぶれる神々に差し出しても構わん」

父が、一体、何を言ったのか理解できなかった。ファイは先ほど聞こえてきた単語を反芻させて、戦慄いた。

自分が あの忌々しい「神」を冠する化け物の 餌 ?

その考えがファイの中でまとまり、逃げ出そうとしたころには遅かった。
数人の大人に、ファイは押さえつけられていたのだ。
父の顔が近づいて、葉巻の匂いと共に絶望するしかない言葉をつむぐ。

「ファリィ、お前は神々の糧となるんだ・・・分かるな?」

うるさい、知ったことか。
いいから放せよ。臭いんだよお前。

ファイはそのとき、一部分のみではあるが、久々に人間に戻った気がした。人間の抱く嫌悪と恐怖がファイの口を滑らかに動かす。しかし、当然のことながら父にその言葉が伝わることはない。

いやだ、あんなのの餌なんて。
やめて、止めろ。冗談じゃない。
放せ、放せよ。放して止めて。いやだ。
いやだいやだいやだいやだいやだやだやだやだやだやだ怖いやだはなしてこわいいやだえさやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ
ねえ、助けて。たすけてよおかあさ

「うれしいわあなた!私の愛しい娘が、最愛の神の糧になるなんて!」

ファイの、最後に残った希望と人間らしい部分が、派手な音を立てて凍りつき、割れた。

ねえ、おかあさん
わたしより、かみさまなの?
あなたがあいしてくれたのは、わたしより
あんな

あんな

あんな    みにくい、ばけものなの?



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