双神二重曲奏 | ナノ



1

暗かった。此処が何処かは分からない。只暗く、熱いとファイは思った。

(なんだこりゃ?)

言葉に出して驚く。
確かに声帯は振るえたし、自分は何か喋った筈なのだ。
それが、全く音にならない。

(なんだこれは)

今度は心の中で考える。熱いと分かるので、消えた訳じゃない。

(…マジで何なんだよ……)
[此処はお前の精神世界だ]

突然聞こえてきた声にファイは振り返った。
それでも辺りは真っ暗で、自分の姿さえ確認できない。
それ以前に、何故この声は聞こえたのか。

(何者だ)
[我が声まで忘れたか 嘆かわしい]



偉そうな口調、デジャヴを感じさせる声。



(…セイレーン、か?)
[漸く気が付いたか]

刹那、暗闇の中から白銀の光が差す。
余りに眩しいそれに、ファイは思わず目を閉じた。

[漸く呼んだか 我が名を]

鮮烈な光が弱まった為、ファイは目を開ける。
そこには白銀の髪の女がいた。瞳も髪と同じく白銀で煌めいている。
纏う衣は真珠の様な光を称える様に滑らかで、肌はそれ以上に滑らかそうだ。

一等星の様にも見えるかも知れないとファイは頭の隅で思った。

[この様にまみえるのは初めてだな娘]
(あーそうだな)

ファイはがりがりと自分の頭を掻いた。
と、いつものひとつに束ねている髪が結われていないことに気付く。
よく見れば自分もまたセイレーンの様な格好をしていた。
しかし自分の着ているそれは対の黒だ。

(…なんだこの格好)
[仕方あるまい 本来主は地上にいるものでは無いのだから]
(…なんだと?)
[今はまだ知る必要はない しかし時間はない 答えよ娘 汝は 我を持ち戦いを選ぶか 我を手放し無を選ぶか]
(はぁ?いきなり何を…)
[我を取る事 即ち汝の生涯から戦いが失せる事無し我を手放す事 即ちそれ汝消える事 引き換えに得るは魂の安穏なり]
(なん、だと?)
[さぁ選ぶが良い娘 戦いと言う生ける地獄か 安穏と言う消滅か]



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