双神二重曲奏 | ナノ



3

ザビィがぼんやりと赤い髪を眺める。
視線に気付く事なく眠っているファイの左顔面は薄黒くなっている。
しかしファイ自体は穏やかな眠りについている訳で、それが殊更ザビィを追い詰めた。

「…ファイちゃん」

無意識にそう呼んでも身じろぐ気配もない。
名前を呼んで、返って来ないのがこんなに辛いのかと、ザビィは溜息をついた。

「返事返って来ないと寂しいもんだな…それでふりーずん怒ってたんだ、俺様今気付いちゃったよ。参ったね」



小さい頃、フリーズが名前を呼んでも、無視したことがあった。
その時フリーズは珍しく泣きながら怒ったのだ。

『きこえてるなら、ちゃんとへんじしてよ!!』

あれは不安からなんだなと、意識のないファイに問い掛けた。
もちろん返事は無かったし、起きていても知るかと一蹴されてただろう。

ふと、ザビィはファイの顔を触って見る。
今まで結構一緒にいたのに触れたことすら無かったなと思った。

「ぁ…」

初めて触れた肌は絹のような滑らかさで、女性独特の柔らかい頬だった。
よく見れば桜色の唇や、まだ黒くなっていない白い陶磁器のような肌、上質な糸を感じさせる髪に長い睫毛など、
ファイにも女を思わせる所があり、普段は冷たい殺気と敵意で隠していたんだと、改めて認識する。

「…あんたさ、結構ずるいよね」

返事は無い。元より期待などしていなかった。それでもザビィは喋ることを止めはしない。

「こう言うときばっかりさぁ…女っぽくなっちゃって。普段はどっからどう見ても男で、俺様何回男色になっちゃったと胃を痛めたか…なぁ何か言ってくれよ、こんなとこで寝てるなんてあんたらしくもない。なぁ…いつも見たいにさぁ…」

言葉の代わりに、涙が出た。


「あっれぇ?なんで俺様泣いちゃってんだろ?暗殺者なのになぁ…」


ぱたりぱたりと、ザビィの涙が自分の頬に落ちても、ファイは目覚めはしないの
だ。




人知れず泣くザビィを、フリーズは見ていた。
泣いた所など見たことがなかった。
そしたらなんだかフリーズまで泣けて来て、その場にしゃがみ込む。

(嗚呼ほんと)

ザビィはフリーズがいるのに気付いたが彼もまた泣いていると分かったから何も
言わなかった。

(嗚呼ほんと)


((男二人が、情けない))

こんなに思われても、ファイは起きやしないのだ。



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