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彼は真実に一歩近付く 彼女の真実に
彼は人から一歩遠のく 彼の心から
「違うこれじゃない…これでもない…クソっ!」
フリーズがローランに連れて来られた楽園【エデン】の教会で文献を漁り初めてから半日がたっていた。
混沌【カオス】とは違い、青空が見え、天気と四季のある楽園【エデン】は黄昏に染まっていた。
「何処だ…何処にしまいやがった!?」
彼らしくも無い乱暴な口調と、剣士として鍛えた腕を壁に叩き付ける音で、ここの協会の責任者は完全に畏縮してしまっている。
それを見て我に返りすまないと詫びれば責任者は逃げる様に自分の書斎に引籠もってしまった。
(ここには無いのか…?いやそんな筈は無い。楽園【エデン】の数だけ教会があって、全ての神話、伝承の文献がその数ある筈なんだ…)
ぴりぴりしているフリーズの頬にぴたりと、冷たい何かが押し付けられる。
「うわぁ!?」
「驚きすぎだよ。ただの差入れ」
そう苦笑してアイスコーヒーを差し出したのはローランだ。
「え、あ、すいません…何でここに?」
「おいおい、ここは俺の主の納める楽園【エデン】で、騎士隊隊長だぞ?」
アイスコーヒーを両手で受け取ったままきょとんとしているフリーズにローランはやっぱり苦笑しながらそこらへんにあった適当な椅子に座る。
「必死だな、君も」
「…必死になっても、何も分からないままですよ」
貰ったコーヒーを一口飲む。苦くてほんのり甘かった。
「脳には糖分が良いらしくてね。…あ、甘いのは駄目だったかな?」
「いえ…お気遣いありがとうございます」
ほんの少しすっきりした為、もう一度作業に戻ろうとしたフリーズにローランが聞いた。
「君は何でそんなに必死で彼女を助けようとする?」
彼女と言う単語が誰を指しているのか直ぐに分かったフリーズは、即答した。
「仲間ですから」
「本当にそれだけかい?」
「え?」
聞き返されたその問いに、フリーズは答えに詰まった。
「普通仲間なら尚更神かどうかなんてどうでも良い筈さ」
「それ、は…」
そう言えば、何故自分はこんなに必死で文献を漁り、彼女の正体と救う術を探しているのだろうか。
只の探求心ではない。もちろん好奇心ではない。
じゃあなんだ?これではまるで―――
フリーズは自分の顔が熱くなるのを自覚した。
「………」
黙り込んだフリーズにローランはファイによくする様に頭を撫でる。
「!」
「すまないな、こんな時に聞くことじゃなかった。無かったことにしてくれ」
根を詰めすぎないようになと言って、ローランは出て行った。
残されたフリーズは冷たいコーヒーを持ったまま顔を赤くさせて。
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