双神二重曲奏 | ナノ



21

ザビィたちのとめる声も聞かず、血の足りない体でふらふらとそれに近寄る。
今も暴れているそれに

そっと触れた。

「ファイ」

躊躇いも無く、ファイと呼ぶ。
呼ばれた瞬間痙攣したように動きを止めたそれを抱きしめる。

「俺はもう平気だよ。だから帰っておいで?」
「・・・」

何も言わないそれにフリーズは優しく優しく声をかける。

「喧嘩してたのに、何でも無いような顔して出てきてさ。怒ってたのにさ・・・」
「・・・」
「・・・後ろ任せたって言われたとき、凄く嬉しかったよ。あんなこと忘れるくらい」
「・・・」
「もう怒って無いからさあ・・・帰っておいで?」
「ふ・リーzu・・・」

しゃがれた声が、フリーズを呼ぶ。
フリーズは痛む傷に耐えながら笑う。柔らかい、光のようだった。

ふっと、巨体が崩れて其処からフリーズめがけて落下したのはファイその人で。
フリーズはその体を受け止めた。柔らかく、細いそれは間違いなく女のそれで。
ファイが女性だと言う事を忘れていたフリーズに明確に伝えた。

「ふ・・・りーず・・・」

そういったきりファイは意識を手放す。
ほっとしたフリーズも一緒に気を失いそうになるが、ファイの左腕を見て一気に覚醒した。

「これは・・・!!」

ファイの腕に完全に同化したセイレーンの禍々しい姿。
銀色のそれはどすの利いた漆黒だった。

「まさか・・・そんな訳・・・」

フリーズが思い出したのはある神話の一文。


『炎の短剣抱きしもの やがてその腕は 力に焼かれ 灰となる』

「っ誰か!!此処から一番近い楽園【エデン】つれてってくれ!!」

自分の痛みに構っている暇など無い。
自分の腕の中で眠る少女がもしかしたら消えるかもしれない。そして




伝説の女神の子孫の可能性があるのだから。



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