16
ローランが剣でザビィの頬に赤い線を引いたのなら、ザビィはローランの鎧を砕く。
情けも容赦もない連激にぶつかり合う武器は火花を散らす。
お互いが見る相手の眼には深い深い、憎悪の様な殺意。
両者全く譲らない。さながら、虎と獅子の食い合いのように。
ウルガはどう止めるか思案しかけて、周りを見た。視界一杯に入ってきた光景に、絶望を一瞬抱き、焦りに拍車をかけた。
未だにぶつかり合っている二人を遠巻きに、それこそ星の数の山賊やらならず者やら、挙句の果てには魔物までどちらかが力尽きるのを待っていた。
「っローランさんザビィ!!」
ウルガは何も考えられなくなった。それほどまでに怖かったのだ。
二人が、では無い。この『囲まれている』状況に。
ウルガの脳内に浮かび上がっているのは一つの過去。
自分と同じ髪の女が、自分の目の前で犯され嬲られ、殺されて、眼からじわりじわりと光が無くなっていく様。
自分は押さえつけられて、何も出来なくて。
家を出てからずっと一緒だった。これからもそうだと思っていた。信じていた。
それが、あっけなく破壊されたワンシーン。
「っやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
一体誰に対して言ったのか分からない。何故叫んだのかも分からない。
分からずにウルガは矢を放った。
『囲っている』奴らにでは無い。今だに屠りあおうと暴れている二人にだ。
「っ!?」
「な・・・!?」
これにはさすがの二人にも予想外だった。
真っ直ぐに自分の心臓目がけて飛んでくる味方の矢。
よけきれない。我に返ったウルガが何かをめちゃくちゃに叫んでいた。それを聞くまでも無く死を覚悟する。
目蓋の裏を舞うように、ガーネットが落ちた。
心臓を直撃していたはずの矢は叩き落されていた。
ガーネットと思ったそれはよく知った人物の紅金(くれがね)の髪で。
自分達を軽蔑するように見た眼はラピスラズリより深い蒼銀(そうぎん)の眼。
「・・・ぁ」
「ファイ・・・ちゃん」
「な・・・んで、なんで来た!?」
ローランがファイに掴みかかる。その眼はザビィのこともあってか殺気立っていた。
「言ったはずだ、これば敵とみなして殺すと!!!」
「ああ」
ローランが硬直する。ファイを掴んでいた手から力が抜けた。
「だから?何しようが俺の勝手だ」
残虐に哂う。にったりと。それは闇の眷属のものだった。
どんと、ローランの腹に衝撃が走る。
ローランの体が傾いて、倒れた。
倒れた本人にも、見ていた二人にも、何が起きたのか分からない。
「敵なんだろう?じゃあ殺しあおうぜ?」
血の海に沈んだローランを哂ったまま見下した。
と、思った。
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