双神二重曲奏 | ナノ



13

「右翼突っ込め!!」

愛馬にまたがったローランの鋭い命令に背くことなく小さくまとめられた右翼部隊が交戦中の組織へ攻撃を開始する。ローランの後ろにはウルガが乗っており、背後から敵を正確無慈悲に狙い撃つ。

「なかなかやるな!」
「そらどうも!!」

最初こそローランを警戒していたウルガだが、今やすっかり前を任せている。明るいのは演技かと思った自分を恥じたくらいには。
ローランも負けじと槍を振るう。一気に7、8人の命が消えた。

(・・・さすがファイとやりあっただけはある)

敵だったら間違いなく自分は死んでいると思い、やっぱり弱いと自嘲気味に笑い、弓を引く。

「ローラン殿!!前方に両者どちらの組織のものではない者が戦っております!!」

伝令係であろう騎士がローランに第3者の戦闘事実を報告した。

「容姿は!」
「金髪・・・というより黄色い三つ編みの男児かと!!」
「!!ローランさん、それ多分俺のダチだ!!もう二人、金髪の天使と蒼髪の聖職者っぽいのがいなかったか!?」
「は!!確かいたかと!!しかし意識は無かったと思われます!」
「孤立無援か・・・よし、そちらの援護に向かう!!急ぎ伝令を!!」
「は!!」

伝令係は馬を駆り、瞬く間に戦場を駆け抜ける。それに呼応するようにローランの愛馬の速度も上がった。

「ナイヤ・・・もうちょっと頑張ってくれ・・・!!」
「ローランさん、サンキューな」
「いや、君だけのためじゃないさ。戦力にって手もある」
「・・・そっか」

それでもウルガは嬉しかった。自分の仲間のためにこうやって疲れている馬を走らせてくれている彼の優しさが。
この世界ではめったに無い、本物の暖かさに触れられたから。

「ふっ」
「ぐあ・・・!」

斧を振り上げた山賊の頭にザビィの槍が突き刺さる。そのまま振り落とし次々に襲い掛かってくる雑魚の群れを屠っていく。
今のザビィは普段のおちゃらけた雰囲気で戦えるほどの余裕は無かった。
今の彼の心境の前面に出ているのは非常な暗殺者の顔と生きて帰るつもりの無い特攻隊隊長としての矜持だけだ。

「くたばれ・・・!」

黄緑色の瞳がひたすら殺意に燃えて、体力の尽きたはずの体は何かに乗っ取られたかのように動き続ける。
もう気力だけで槍を振り回していた。ここで力尽きるわけに行かなかったから。

(・・・せめて、こいつらだけは・・・!)

背後では、ザビィが付け焼刃で習った魔術で作られた結界の中で、昏々と眠り続けるフリーズとシャルが居た。
ファイのそれに比べれば強度は格段に劣る。しかし相手が物理攻撃しか出来ないのなら、ちょうど良い牽制になる。
上から振り下ろされる鉈をかわし、槍の柄頭で鼻を粉砕して蹴り飛ばす。
後ろから来た奴には裏拳をお見舞いし隠し持っていた短剣で心臓を切り裂く。
その動きにあわせて長い三つ編みが生き物のように揺れた。
孤立しているとは思えないくらいにザビィが優勢だった。
しかしザビィは人間で、ファイのように超人離れしているわけでもなければフリーズのように特殊能力があるわけでもなかったし、
ましてやウルガのように遠距離攻撃が出来るわけでもなかった。
体力が底を尽きてしまっているその体に、無情にも矢が命中した。

「ぁ・・・!」

声を上げることも出来なくらいに消耗していたザビィはその場に崩れ落ちる様に倒れる。矢が射てた場所は膝裏で、貫通していた。

「・・・っ、ぁが・・・」
「くそ、てこずらせやがって・・・」

矢の刺さった膝を抱えて倒れこんだザビィを、スキンヘッドが見下ろす。隣に居た出っ歯の男が下卑た笑い声を立てる。

「こいつぁい商品になるぜぇ?こんなに顔の整った奴、楽園【エデン】位にしかいねえ」
「あの結界の中の奴らなんか貴族も金落としてってくれんだろ、男色の好事家達がよ!」
「る・・・せぇ・・・」

ザビィが殺意のみなぎった瞳で睨めばその場に沈黙が落ちるもののすぐに耳障りな笑い声が響く。
ザビィの腹部に、つま先がめり込む。

「ぅぐ!」
「動けねえ癖に粋がってんなよ、殺さねえだけましだと思えや」
「おいおい野郎が野郎に犯されるんだぜ?いっそ殺してやった方がましだろ」
「ぎゃははははそらそうだ!!」
「・・・豚どもが」

ザビィが苛立たしげにつばを吐く。
しかし動けないからと殴る、蹴る、斬られるといった暴行を激しくさせただけだった。
野郎共が、嬲るのに飽きた頃だった。



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