10
同時刻。
別の酒場の一室でザビィは不貞腐れてしまっているフリーズと一緒にいた。シャルは疲れたらしくベットの上で丸くなって眠っている。
「ふりーずん、もうそろそろ会いに行けば?」
「行かない」
「ファイちゃんきっと反省してるよ。謝られて上げなよ」
「嫌だ。行かない」
「あーもー・・・頑固なんだから・・・」
ザビィの小声も聞こえてないのか眉間に皺を寄せたままフリーズは真正面を見ていた。
「ファイが悪い。何もあんなふうに言わなくても良かったんだ」
「そりゃあまあ・・・でもあれでファイちゃん気ぃ使ってんのよ?警戒心強い子だし」
「それでも向けられた好意や善意をあんな形で・・・」
「しょうがないんじゃない?」
「・・・ザビィはあれでいいの?」
フリーズがザビィを睨む。ザビィは堪えた様子も無くやれやれと肩をすくめた。其の態度が気に食わなかったのか珍しくフリーズは食って掛かる。
苛々している所為か、ちょっとした善悪の判断が鈍くなっているらしい。
「あっそ、ザビィはあれでいいんだ。ファイもそうだけどさ。
容認しちゃうザビィも心広いよね。ああ大変だ、ザビィがあんなこと許すから罪も無い人がどんどん死んでいくんだ。
ファイって本当に殺すの好きだよね、信じられないし認めたくないし。あんな殺人機械」
フリーズの幼少からの癖に、最初の方は苦笑して聞いていたザビィも最後の言葉には頭にきたらしい。
なおもぶちぶちと文句を言い続けるフリーズの肩を強く掴み自分の方に引き寄せる。
ザビィの黄緑色の目がフリーズの視界に入る。其の目は一種の怒りを湛えていた。
「ざ・・・びぃ・・・?」
「フリーズ、言っていいことと悪いことがあるだろ。最後のは撤回しろ」
「な・・・にを?」
「ファイが機械だと?ふざけた事言うな」
「も・・・物のたとえだよ・・・?」
「たとえでもだ。大体、今まであいつがあんな事しようとしたこと俺の見た限りじゃねえ」
「・・・?」
フリーズの緋い目が困惑に染まる。ザビィは一つ溜め息をつくとフリーズの方から手を離し、後頭部を掻く。
「・・・ファイちゃんてさ、警戒心強い割りに無駄な殺しはしないんだよ」
「・・・」
「ちょっかいかけられてもさ、命に危険が無けりゃほっとくし。ましてや今回は物拾ってもらってただけだぜ?本来は一々殺すこともしないんだよ」
「じゃあ・・・何で・・・」
「・・・憶測だけど、そうでもして危険を回避しようとしたんだろ」
「・・・?」
「だから、お前ら守る為に殺そうとしたんじゃない?」
フリーズは目を見開いた。意外だからではない。思い当たる点がいくつかあるからだ。
今までのウルガとの旅は文字通り命がけだった。寝るときもどちらかが必ず寝ずに番をしていても戦闘になるし、何度も魔物や賊に襲われた。
しかし、ファイと行動をともにするようになってから全くといっていいほど無くなった。夜寝るときファイは女ということで別々に寝ている。恐らくそのときから寝ていないのではないか。
「・・・俺、酷い事・・・・・・」
「そう思うなら謝られておけ。後あの言葉は撤回な」
「・・・うん」
フリーズはザビィの肩に頭を乗せる。フリーズが甘えたいとき、誰かの肩に頭を乗せるのも一つの癖だった。
幼少から変わらない幼馴染の癖に苦笑しながらザビィはほんの少しだけ、なんとも言いようの無い後悔に襲われていた。
そんな時もつかの間だった。
派手に扉が蹴破られ、物々しい男達が獲物を向けてきたのだ。
「!?」
「おっと動くんじゃねえ!!」
ザビィが槍を構え不意をつく前に大きい斧を首に突きつけられ、身動きが出来なくなる。
いや、それだけなら強引にでも突破していただろう。それを敵わなくさせていたのは。
「こいつらの命、惜しけりゃ動くんじゃねえぞ」
「な・・・!」
ほんの一瞬の隙を突かれ、後頭部を殴られ気を失ったフリーズと、寝ている上から更に薬品でもかがされたのか一向に起きる気配の無いシャルが人質に取られてしまったから。
「付いてきてもらおうか、兄ちゃん」
「・・・ちっ」
ザビィは苦々しく舌打つことしか出来なかった。
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