双神二重曲奏 | ナノ



9

ウルガがファイを追いかけてローランの店へ着いたのはそれから2時間後だった。
息を切らせて店へ入ったウルガをローランはいつものように接客する。
ウルガがファイの所在を聞こうとして固まった。
客がいなかったからなのか、ローランは大きなテーブルのベンチに腰掛ていた。
其の足に膝枕をされ眠っているファイを見つけたからだ。
もちろんウルガが固まったのは其の所為だけではない。
いつもの毅然としたファイと酔っているのか顔を赤らめて眠っている彼女のギャップが激しすぎる所為でもある。
しかしもっと大きな理由はファイの体にあった。
自分と同じ普通の人間と言う種族の形をしていたはずだ。
しかし其の耳は三角形の獣の耳になっている。ゆらゆら揺れている長い尻尾がある。
猫型の獣人だ。黒い耳はぴくぴくと動いている。
ウルガが固まっているのを見てローランは笑う。ウルガがファイを怖がっていると勘違いしたからだ。

「大丈夫だよ、酔って寝てるだけだし」
「あ・・・そうじゃなくて・・・それ、俺の連れ・・・・だと思う・・・」

ウルガからしたらここで寝ている少女がファイと同じとは思えない。
曖昧に言葉を濁したウルガをみたローランが何か理解したように苦笑をもらした。

「余計な詮索失礼するよ。君はファイの連れかな?」
「え?あ、・・・おう・・・」
「じゃあお酒入ったこの子は見たこと無いかな?」
「いや・・・前に酒樽4本一気飲みしてたのは見たけど・・・酔ってなかった。
・・・あんたは?」

彼なりに自分を探ろうとしているのがローランには分かってしまう。
ファイに似ているなと思い苦笑しウルガの頭を軽く撫でる。

「うぉ!?」
「そんなに警戒しなくていいよ。俺はローラン、ファイとは旧知の間柄さ」
「・・・俺は・・・ウルガ」

未だにガチガチのウルガの頭をわしわしと撫で続ける。
しばらくなすがままになっていたウルガはファイのことについて切り出した。

「あの・・・ローランさんはコイツの事知ってるのか?」
「いや、この子のこと過去のことは何も知らない。
戦場で敵同士として出会ってお互い殺しあった、其の後何かの縁でこうやって一緒にいる。
それだけの事だよ」

ウルガは目を見張った。一緒に行動するようになって日は浅いがファイの強さは底なしだと思っている。
何度斬りつけられても骨を折られても立ち上がっては相手を絶命させようとする異様さを、短い期間ながらも何度も見てきたのだから。

「ファイは強かったよ。俺も死に掛けたからな。
何よりびっくりしたのは何度斬りつけても立ち上がって来るんだよ。まるで殺すことに取り付かれたように」
「・・・」

その表現にウルガは少なからず恐怖を覚えた。
そんなウルガとは対照的にローランは膝の上のファイの頭を撫でる。
気持ちよさそうに寝ているファイからは、普段の凶悪さや冷徹さが全く感じられない。

「ようやくここまで人っぽくなってきたんだけど・・・お酒はいるとこの有様で」
「でもこの間は全く酔ってなかったぜ?」

苦笑しながらファイの髪をいじるローランをウルガは不思議そうに聞いた。

「それ、多分発泡酒か果汁酒、焼酎だったでしょ?」
「そういえば・・・」
「ファイはね、普通のお酒じゃ全く酔わないんだよ。お神酒じゃないとね」
「おみき?」
「神様にお供えして、清められたお酒だよ。一口でも飲んだらこうなっちゃう」

不思議だよなーと笑うローランにつられてウルガも笑う。其の声でも聞こえたのかファイがむくりと起き上がった。

「にゃう・・・?」

目が半分寝ているファイを見てローランが苦笑しウルガが目をまん丸にして固まった。其の顔は真っ赤に染まっている。

「おはようファイ。ウルガ君が迎えに来てくれたよ」
「ろー、はよー・・・」

舌足らずにローランに挨拶したファイはウルガを見てボーっとした。
見られたウルガはローランに頭を撫でられた時以上にがっちごちになってしまっている。
ローランがおもむろに口を開いた。

「ウルガ君、襲っちゃ駄目だぞ?」
「んな!?そ、そんなことするわけねえだろ!!」
「ファイ、猫じゃなくて豹だから」
「はい?」
「変にちょっかい出すと食べられちゃうよ?」

そんな冗談・・・といいかけてウルガはファイを見てぎょっとした。
机をがりがりかじっていた。いやかじっていたなんて可愛いものではない。
咬まれた机は無残にぼろぼろになり使い物にならない。
ローランは慌てた様子も無くファイの首根っこを掴んで机から引き剥がす。

「ファイ、肉上げるから咬むのやめなさい。・・・あー・・・又買いなおさないと・・・」
「いやそういい問題じゃなくないか!?」
「にゃー」
「いやいやそういう問題。なれちゃったから」
「さいっすか・・・」
「みゃあー」

ああもう疲れたといわんばかりにウルガがローランの隣に座った。ファイはローランの膝からウルガを見ていた。じとっと見られウルガは落ち着かない。

「・・・なんだよ」
「うーが、うーが」
「!!」

ぴたりとウルガの手にファイの手が重なる。
低い声は故意に出していたらしく、ウルガを呼ぶ声はいつものそれとは違い高音だった。
手をつかまれた上、自分の名を呼ばれたウルガは焦った。顔は真っ赤で冷や汗が頬を伝った。
初対面のローランでさえ分かった。



(ああ、この子女性に免疫無いな)


手を振り払う事も出来ず硬直してしまっているウルガをそんな彼に苦笑しているローランを見ても。
ファイは鳴き声のようにうーがうーがと繰り返すだけなのだ。




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