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「見事に後付いてる・・・」
「2分の57は手加減した」
「それ殆ど本気・・・って言うか殺す気だったでしょ?」
白目剥いてぶっ倒れたザビィの真っ赤な頬に濡らした手ぬぐいを当てつつ血塗れのファイに木綿の布を渡しながらシャルは突っ込む。
いやまず2分の57って言うおかしな分数に突っ込もうかシャル君。
「はっ!何故分かった!?」
「ファイが手加減するわけが無いですから」
「さすが俺の弟子。分かってる」
「有難うございます!」
「いや2分の57って28と2分の1だよ!?殺す気満々所の騒ぎじゃないから!!」
ぼけぼけな師弟にフリーズが的確に突っ込みを入れる。
それによって師弟から場違いな反論を喰らいたじたじになってしまっている。
其の傍ではウルガがザビィの顔に何やら書いていた。
「ねぇウルガも何か言ってよ・・・って何かいてるの!?」
「なあ、これ傑作だろ?」
ウルガが引きつるように笑いながらザビィの顔を指差す。
其処には『ぼくは おんなのひとに なぐられました』と頬にでかでかと書かれていた。
フリーズはザビィが起きる前に消してしまおうとしたのだがファイが便乗し
『ぼくは はっしんきを ひとのにもつにいれる すとーかーです』と書いて、其処からウルガとファイによる合作大会が始まってしまい、収拾が付かなくなってしまった。
まあこのタイミングでザビィが起きるのは流れ的にお約束な訳でありまして。
赤・黄・緑の馬鹿馬鹿しい喧嘩が繰り広がったのだ。
「ねえなんでお前とアンタはこんなくだんねぇことしかできねえの!!?馬鹿!?馬鹿ですかそうですか!!」
「うっせえお前なんかこの前ナンパしたねぇちゃんに飯だけ奢らされて逃げられてたじゃねぇか!!人生無駄使いしてんなあ!!」
「この前俺の毛布の中に入ってこようとしてトラップに引っかかって黒こげだった!!すんげえかっこ悪かった!!」
「ウルガそれは聞き捨てならん!其の次のナンパは本番までもってった!!」
「強姦の間違いだろカス!!」
「喧しいわ童貞老け顔!!後ファイちゃんなんであんな所に硫酸と油と発火物置いといたの!?」
「ノリと勢いだ!!後どーてーって何だ!!」
「ヤって無いクソガキの事だ!!」
「何を?」
「うん、あんたに常識を求めた俺が馬鹿だった」
「ファイちょっとしゃべんな、話ややこしくなる。
テメェみたいにゲテモノ食いじゃねぇんだよこの雑食が!!
アンタの其の童顔はあれか、全世界の女食い物にするためだけのもんかああ!!?」
「オールマイティに女性を愛するのは男のもっともたる使命なんだよ!!
てめえみたいにえり好みしない主義なんだ俺は!!」
「只の女好きにそんなこと言われる筋合いねぇわ童顔万年発情野郎!!」
「女に手ぇださねぇんじゃ無くて手ぇ出せねぇんだろがこの老け顔ヘタレ童貞野郎が!!」
ファイを黙らせザビィ・ウルガの喧嘩はヒートアップしていく。
他にもお互いの髪型の中傷やら殺した人間の数、はたまた知り合いの数やら身体的な誹謗。その外諸々言い合った。
「あぁもう今日と言う今日はかんべんならん!!今すぐてめぇを八つ裂きにしますOK!?」
「それはこっちの台詞だ!!ハリネズミ宜しく蜂の巣にでもなってろや!!」
ザビィが槍を、ウルガが弓を構えた。其のときだった。
二人の間を閃光が迸っていったのだ。
光の発生源を見ると仁王立ちになったフリーズが魔道書を構え、緋い目で二人をじっと見据えていた。
「・・・」
「・・・えっと」
「ふりーずん・・・?」
ザビィがそう呟いた瞬間フリーズは早口で呪文を唱える。緋色の目が怒りに見開いた。
「かんべんならないのはこっちの台詞だ馬鹿あああああああああああ!!!」
情け容赦無用の光魔法がウルガとザビィの意識を消し飛ばした。
口から泡吹いてぶっ倒れている二人を一瞥したフリーズは憤慨したまま毛布に包まった。
一部始終を見ていたファイとシャルは無言で不貞寝したフリーズを見た後、
「・・・怖い夢見そうなので一緒に寝てもらっていいですか?」
「寧ろ俺からも頼む」
と、もそもそと就寝準備にいそしんだと言う。
次の日以降、二人がフリーズに散々パシられたのは言うまでも無い。
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