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「今日はここで野宿だね」
「おう」
血だらけのファイがまっさら同然のフリーズの意見に同意したのは3日前の深夜。
其の日は楽園【エデン】の近くの洞窟で魔物が住み着いて危険だから退治して欲しいと依頼を受けたからだ。
依頼、というよりも子どもが1人攫われていて一刻を争う状況だった為、フリーズとウルガとシャルがに行ったのだ。
しかし魔物と出くわしてから初めて自分達がサポート、又は後衛の役職だという事に気が付いて
今のメンバー中唯一のアタッカー兼特攻のファイを引きずり出して(本人はめちゃくちゃ嫌がった)事なきを得た。ファイは物凄く憤慨していたが。
そして今夜野宿なのは楽園【エデン】の住民にファイの血だらけの格好を見られ、無駄に謙遜されたからである。
「ファイ、今日はお疲れ様」
「全くだ、どっかの誰かさんが人のこと無理やり引っぱってくれやがった所為でな」
「う・・・それは悪かったよ」
「シャルが居ただろうが」
「僕じゃ腕力が足りませんよ・・・情け無い話」
ファイが白い羽をいじりながら話を振るとシャルは自分で言って肩を落とす。
結構気にしているのか元気が無くなった。ファイは止めに鍛錬が足りないんだといえばシャルの翼がへにょんとたれてしまう。
「じゃあ緑は?矢より手のが出るだろ」
「あんたと一緒にするな馬鹿力が。後緑じゃねぇ、ウルガだ」
弓の弦を張りなおしていたウルガは眼を半分の細さにしてファイを睨む。馬鹿力といわれた本人はまんざらでもなさそうだ。
「・・・何満足気に胸張ってるんだよ?」
「俺は馬鹿力です褒め称えなさい」
普段全く使う事のない敬語でのボケに3人が肩を落とした。そのときだった。
「グルルルルル・・・」
4人の耳に響いたのは獣が唸る声。しかも通常の獣では発する事の出来ない禍々しい殺気も付いている。
「・・・囲まれてるね」
「こいつぁ・・・獣人もどきか?」
「普通の獣や魔物より厄介ですね・・・結構な数ですよ、この声からして・・・」
ウルガ・フリーズが何気なく自分の武器を手にし、シャルがそっと剣を二振り抜き出す。ファイはその場にゆらりと立ち上がった。
「ファイ?」
「どうせ敵なんだろ?」
ゆっくりとファイが首を鳴らす。がさりと、近くの茂みが大きく揺れた。
「潰すだけだ」
ファイの言葉に反応したように大きな影が2・3飛び出してきた。
自分に飛び掛ってきた1体の獣人もどきの脳漿を素手で粉砕したファイは奥へ単身突っ込んでいく。更に飛び掛ってきたがそれらも同じように頭を潰していく。
「ファイ!?どこいくんですか!?」
「奥の方から潰す!てめえらそこで粘ってろ!」
そう言い捨てるとファイは全力で走って行ってしまった。
「ちょっと!!もう俺たちは後衛だって言ったのに!!」
フリーズが叫ぶも怒りの矛先を向けるべき本人はもう居ない。あれだこれだ叫んでいるうちに結構な数になっていた。
ウルガが額に血管を浮かべて怒鳴り散らす。其の声に呼応するように矢が乱れ撃たれる。
「あああああ!!!あの猪女!!最前衛がいなきゃ俺ら攻撃できねぇって言ったのによ!!」
「ファイは考えるのが嫌いなんだよ!」
「いつかぶっ飛ばす!!」
「「絶対無理!!確実に返り討ち!!」」
シャルだけでなく、フリーズにも言われ、軽く落ち込むも矢を放つ手は緩めない。
シャルはフリーズの援護の元、確実に一体一体倒していく。しかし一向に数が減らない。
「くそ・・・っ!?」
ウルガが地を張っていた植物の蔓に足を取られ転倒した。其の前には熊と狼を掛け合わせたような獣人がいて、相手の射程距離内だった。
「ウルガっ!!」
フリーズがそちらに魔法を放つも、詠唱が足りず倒せない。シャルが向かおうにも数が多く、そちらに一杯一杯だ。
「やべ・・・!」
ウルガは隠し持っていた短剣を構えたが全く意味など無い。太い腕が振り下ろされた。
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