双神二重曲奏 | ナノ



8

飛び出したファイが見たものは自分の身長の五倍はあろうでかい魔物。
人の胴体だけが触手をまとって浮遊しているように見える。
人間の心臓部に当たる所にはぽっかりと穴が開いていて、反対側の景色が見えてしまっている。
何本か矢が刺さっているのはウルガが応戦したからだろう。
しかし矢を放った本人が何処にも見当たらない。
ファイがウルガを探そうと前へ踏み出した瞬間白い触手が高速で襲い掛かってくる。
ファイはそれらを避け、又は叩き落したり剣で両断したしながらウルガを探す。

「おい緑!!何処だ!!」

怒鳴っては見たが返事が無い。
何度か怒鳴りながら触手を切り落としていたファイは視界の隅に魔物の下敷きになっているウルガを捕らえる。
ファイは魔物がウルガを踏み潰している分の肉体を切り落とす為にしつこく追ってくる触手を避けながらウルガに近づく。
標的を射程距離内に捕らえて何の変哲も無い両手剣を振りかざす。

「退いてろデカブツが!!」

勢い良く振り下ろした剣は、しかしガキンと音を立ててはじかれてしまう。其の拍子に刃が毀れた。
後ろからシャルとフリーズがが遊撃しているが大したダメージを与えられていない。

「クソがっ!!」

もう一回、全力で剣を振り下ろす。
しかしバキリと音を立てて折れてしまったのはファイの剣だった。
即座に投げ捨て、素手での構えを取る。
しかし斬撃系統の攻撃で聞かないものが打撃系統の攻撃でダメージを与えるなど到底無理な話だ。
ファイは駄目元で銀色の腕輪に叫んだ。

「あれは・・・」
「おいセイレーン!!力を貸せ!!」

フリーズが何か言う前に呼応するように光出す。
其処から響いたのは重々しい声音。

[・・・呼んだか 娘]
「ああ呼んだ!!あいつを斬りたい、いけるか!?」
[・・・今回 我の出る幕は無い]
「っはあ!?今まさにテメエの出る幕じゃねえか!!」
[・・・男が おるな  蒼き髪の男児]
「・・・フリーズとか言う神父の事か?あいつの魔法も効いてねえよ!」
[そんな陳腐なものではない    謳だ]

びくりと、フリーズの方が震える。
それに反応してかファイの背中にも電流が走った。
謳 其の一言が二人を痙攣させる。

「う・・・た・・・?」
[左様 神父 汝なら知っておろう]

振られたフリーズは少し目を泳がせた後、意を決したようにうなずいた。

「知って・・・います」
[ならば紡げ 奴を倒す言霊を]

腕輪・・・セイレーンはそのまま沈黙してしまった。
ファイが怒鳴ろうとしたのをフリーズが止める。

「ッなんだよ!!」
「ちょっと手伝って!!」

そのままファイの手をがっしりと掴んでしまう。
ファイより二回りほど大きな手だった。

「手ぇ繋いでる場合じゃ・・・」
「良く聞いて!!俺が謳うから復唱して!」
「歌ってる場合でもねえだろ!!」
「説明は後でするから!!今は言うとおりにして!!」

すぅと、フリーズの周りが変わっていく。
いや、変わって行っているのはフリーズ自身だ。
フリーズ自身が無機質なものになっていく。
緋色の目が何の感情を映さなくなった。
ファイは唖然と見ているしかなかった。
そんな時フリーズの無機質な声が旋律を紡ぎ出す。

『深き罪背負うもの』

ファイとフリーズの繋いだ指先から知らないはずの旋律が響いてくる。
ファイは戦慄した。これを、自分が謳うのか。

そう思った瞬間口が勝手に動いていた。

『『断罪前に逃亡する愚か者よ』』

二人の空気が、自然ではありえない動き方を始めた。

『『貴殿らに逃れる道など無し』』

『『なぜなら我らがその道を塞ぐからだ』』

『『貴殿らの創りし道を我らが崩すからだ』』

『『崩壊と嘲りの中で 深く深く後悔せよ』』









『『其の身を煉獄で焼かれながら 灰も残さず燃え尽きよ』』


蒼炎と紅蓮が 燃え盛った。



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