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ファイには何が起きたのか全く理解できなかった。
ただただ腐った血溜まりのなかで暗い天井と異質な空間を眺めていた。
まだ頭ががんがんしている。
恐らく自分が作り出した異質な空間。
天井が抉れている。周りのものが大破している。
そして
天使の子以外 原形を留めていなかった
少年はショックで気絶しているらしく、声をかけても反応が無い。
ふとファイは、自分の傷が全て癒えているのを自覚した。
(・・・早いな)
いつもなら最低でも2〜3日掛かるのにと思ったが、直っているのならいいかと開き直った。
上のほうが騒がしい。どうやら残党がここの騒ぎに気が付いたらしい。
「・・・めんどくさい」
ファイは億劫に立ち上がる。
近くに置いてあった自分の剣を手にし、刃に付いた血を振り払う。
タイミング良く残党達がなだれ込んでくる。
ぶっ殺すだの片付けろなど、よく聞く台詞のオンパレード。
ファイは威嚇の為に一言叫んだ。
「纏めて来い!一人残らず喰い殺す!!」
何故食い殺すなんて言葉が出たんだろう。
そう考える余裕など、ファイには無かった。
残党処理が終わったのはそれから3時間後だった。
頭への強い衝撃、出血多量、腐敗した血だの肉だの若干体内に入れてしまったのを含め、ファイはぼろぼろだった。
其の状態で暴れ、殺し尽くしたファイは矢張り化け物だ。
もう痛い気持ち悪い所の騒ぎじゃない。
このまま寝ればどこかへ飛んでいけそうだ。
「くそっ・・・ザビィあの野郎マジで殺す・・・!」
何が楽な仕事だくそったれが!!と叫んでは見るが当の本人はここに居ない。
ファイの遠吠えはこの骸だらけの空間に虚しく響くだけだ。
声の余韻が消えてたっぷり十呼吸分、ファイは立ち上がり、天使の子供に近づいた。
「・・・置いといたら、死ぬかな」
ザビィが居たら当たり前だ馬鹿!!と突っ込みの一つでも入れそうな一言だが、当の彼は上記の通りここには居ない。
後頭部をがりがり掻いた後、ファイは天使の拘束具を引き千切る。
そのまま肩に担ぎ上げ、重たい体と剣を引きずって長い長い階段に足をかけた。
渇いた血がファイの体に纏わり付いて行かせまいと引きつっていた。
ファイが消えてから残ったもの、それは自分達が殺してきた子供たちと同じ末路を辿った愚かな山賊たちの肉片だけだ。
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