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バッドの不快極まりないしゃがれ声をBGMにファイはそんな事を思い出していた。
あの時のザビィは一体何がしたかったのか未だに分からない。
からかいたかったのか、不意を突きたかったのか、何にしろ良い考えでは無いだろうと思考を中断させる。
「・・・でよぉ、俺様が・・・おいファード、聞いてんのか?」
「・・・すまん、疲れて呆けていた」
「あぁ?それならそうと言えよ」
もういいから休めと組んでいた肩を開放する。
いくらファイでも体格の違う人間の体重が乗っていたら肩が凝る。
ぐるりと肩を回してほぐすと、バッドがそうそうとファイに向かって告げた。
「お前、俺んとこの幹部になるつもりねぇか?」
「・・・?」
「なあに、お前は一匹狼の風来坊だろ?
大人数でいりゃ何かと助かるだろうし、俺もお前のような強ぇ奴が居てくれると助かる」
「・・・」
ファイは本来、このような申し出は絶対に断る主義の人間(?)だ。
確かに大人数で居れば助かる事もあるのだが、
大抵は盗品の山分けによるトラブルや組織内の争いなどで始末される事のが多い。
それ以前にファイは一人で行動する派なのだ。自分以外の誰かと群れているなど不快なだけなのである。
しかし今回は仕事でこの組織に紛れているわけで。
自らの都合のいいようにする訳にもいかない。何より、ザビィが煩く文句を言ってくる。
「・・・考えておこう」
「ああ。頼むぜ」
少し思案したファイはそういって自分に当てられた部屋へ戻っていった。
「・・・」
部屋に戻ったファイは、今日の略奪で汚れてしまった両刃の片手剣を無造作に床へほるように置く。
続いて防具の留め金を乱暴に外して床へ落とし、靴を履いたまま簡易なベットへ身を投げた。
以前宿屋でザビィが靴くらい脱げと文句を言っていた気がするが、まあ気がするだけなので気にしないことにする。
「・・・中々尻尾ださねえな」
いつも見たく取り押さえて吐かせばいいのだが、
今回の依頼が秘密裏に行われている事と、これを失敗したら今後一切飯を奢らないとザビィにキツク言われてしまった。
「面倒くさい・・・」
ふうっと、溜め息をついたときだった。
「・・・?」
入れ替わるようにふわりと生ぬるい風に紛れて錆びた鉄の匂いがファイの鼻をついた。
嗅ぎ慣れている分、普段は煤臭い混沌【カオス】の空気に混ざっていた匂いに気が付いたのだ。
「・・・血、か?」
ファイは其の匂いに誘われるように立ち上がった。
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