11
「ほい今回の報酬」
ぽんと投げ渡された布袋をファイは慌てることなくキャッチする。
あの後、気を失ったファイをザビィが文字通り引きずっていき自分に与えられた楽園の屋敷へ帰り、専属の僧侶に回復魔法をかけてもらった。
ザビィも重症だったが最重症だったファイはここで休めと泊めてもらっていた。
1週間は絶対安静といわれていたのに1日で完全回復しているファイの生命力は化け物染みている。
「それにしてもあれ、何だったんだろうねー腕輪が細剣になっちゃったし」
「俺にも分からん」
無駄に大きい門の柱にもたれたファイはあの声は一体誰だったのかと思考の海に沈む。
聞いたことが無いのに聞いたことのあるような声。只のデジャヴかと自己完結しザビィに背を向ける。
「もう行っちゃう?」
「用も無いのに長居は無用だろ」
「目的も無いのに?」
振り向かずに言うファイにザビィは淡々と問う。
ファイは振り向かなかった。
「別にいいだろ」
「だったらここで雇われればいいじゃん。いちいちあんな所徘徊しなくても」
「飼われるのは性に合わん」
淡々としている。前回も前々回もこんな別れ方だった。
何故かザビィはファイの居場所を嗅ぎ付け仕事を押し付けていくのだが。
「分かった、じゃあ又頼みに行くわ」
「ざっけんな、お前の仕事は買わない」
「ひどっ!!」
「・・・でもな」
ファイはザビィに向かい合う。
三度目の別れなのにこうやって相手を見たのはお互い初めてだった。
「ローリスク・ハイリターンな仕事なら考えておこう」
「・・・!」
不敵に笑ってザビィを見る。ザビィは不覚にもときめいてしまった自分を叱咤する。
「・・・ああ、まかしとけ」
ザビィも笑って返す。
「頼むぜ、金輪際あんな仕事はゴメンだ」
「りょーかい、期待しないで待っててくれな」
ファイは踵を返し進む、ザビィは自分の飼い主の下へ帰る。
「「じゃあな」」
またな、と言わないのは『また』があるとは限らないからだ。
ファイが進むのは混沌、命などに価値は無く、簡単に消えてしまうところだから。
ザビィが身を投げ出すのは世界の暗闇、目的は何があっても達成しなくてはならないところだから。
しかし、二人はまだ知らない。二人には『また』次があり、そこから紡がれる話があることを。
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