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「・・・別に、いいんじゃない?」
長い静けさを破ったのはフリーズだった。
「俺も怖いよ。この中の誰かが欠けたら俺の世界はそれだけで簡単に崩れるから。最初は切り捨てられると思っていたのにね。誰かに依存したら終わりなのに」
そういう世界なのだ。ここは。気を抜いた次の瞬間昨日まで話していた人間に殺される。そういった場所だった。
強者だけの世界だ。
「それでも俺はいやなんだ。ウルガもザビィもファイも大切なんだ。誰かいなくなるなんて、嫌だよ」
「あぁん、ふりーずんだいたーん」
間伸びた声がふざけた言葉を響かせる。ザビィだった。わざと裏返された声は、しかし次の瞬間には真剣味を帯びていて。
「シャル死んだ時、さ。なんか、後頭部おもっくそぶん殴られた気分で・・・その拍子になんか、欠けたみたいになった・・・もう、あれは勘弁だにゃー」
次の瞬間にはいつもの口調で、しかしふいと明後日の方向を見てしまったザビィを見ながらウルガはふっと口元を緩めた。
「・・・なんだよ?」
「同じ考えだったんだなー、と思ってよ」
少しむくれながらウルガを見やるザビィにガキかと少し小ばかにしながらもウルガは穏やかに言葉をつむぐ。
「坊ちゃん育ちって言われりゃそれまでだけどさ・・・最初はフリーズとザビィを利用しようとしてたんだ。強いし、騙まし討ちなら得意だったからな。十分強くなったってうぬぼれて無謀にも敵討ちしようとしてた俺に、強さ見せ付けられて。でもよ、思った以上にお前らいいやつ等だし男としてはむかつくけど、戦士として惚れるくらい強いし」
「お、じゃあ結婚とかしちゃう?」
「そういう意味じゃねえよばーか」
そういってまた普段通りの言い合いを始めた二人に、フリーズとファイは苦笑する。
「・・・生きてて、よかった」
ファイが消えそうな声でそう呟く。
「早く気づけば、シャル助けられたかな?」
小さく小さく、溜め息のような台詞に誰も何もいえなかった。もう過ぎた事だと、切り捨てられない。
「・・・さあ、ね。いつ、誰が死ぬかなんて、殺されるなんてわかりゃしないんだし」
台詞に比べて弱弱しいフリーズの返事に、全員が沈黙した。不安なのだ、皆。残酷な世界で不確実なものの上いて。
いつ奪われる側になるかなんてわからないし、全てを失う恐怖は常に隣に付きまとう。
でも、それでも今を生きて時を刻んでいるのは間違いなく自分たちだから。
「それでも生きるっきゃ、ねえよな」
全員で。 そう言ってフリーズに凭れ掛かったファイの顔はやはり無表情だが、どこかつき物が落ちたかのように晴れやかで。
(これからも、よろしくなと声を出さずに告げられた言葉に)
三人は、笑った。
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