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フリーズの周りに闇と光が集う。ウルガとザビィが目を見張ったが、後で言うと口の動きだけで伝える。
放たれた黒白二つの力がレンドルーア侯をよけ、サタンを襲う。それを軽々よけたサタンにザビィが飛び掛っていった。
「ザビィっ!!」
「馬鹿め!!」
サタンがザビィの足を掴み、逆さづりに持ち上げる。しかしザビィはそれを確認するなり口の端を吊り上げた。
「何がおかしい?」
「おねーさん、感電するような恋はお好きですか?」
ザビィの意味不明な質問にサタンが訝しげに見やる。ぱちりと不穏な音がした。
「100万ボルトお見舞いしちゃうっ!」
最早つかまれている恐怖で本格的に頭がおかしくなったザビィはアホなことを口走りながら足に伝導する魔力をどんどん蓄えていく。それを電気として爆発させた。
「っ!?」
電流が体内を離れる前に、ザビィを壁に叩きつけるように放り投げたサタンは自分に向かってくる暴風からかばうように腕を上げる。
其の拍子にファイが床に落とされそうになったが、先程のとは違う風が床すれすれで受け止めた。
ウルガの風魔法だ。
「よし、何とか成功」
なれない魔術で精神的に苦しかったがファイを取り返したことで其の口元には笑みが浮かんでいる。こちらも重圧で若干頭がおかしくなりそうになっていた。
荒く息を吐き出しながら、ウルガは嵐帝の上にファイを乗せ庇っておくように命じる。嵐帝は一つ返事で了承する。しかし、余計な事まで口を出す。
『小僧、このままでは主の精神は破壊されるぞ』
「分かってる・・・けどよ、相手があれじゃお前いないと・・・」
『・・・廃人になりたいのなら、勝手にしろ。だが我を巻き込むな』
「手厳しいな・・・おい・・・」
ふんと鼻を鳴らして嵐帝はファイを乗せて後ろに下がり、風を卵状にする。其の中にファイを放り込むと再びウルガと並んだ。
『あの小娘、人にあらず』
「・・・だろうな」
『分かっていて救おうとするか、奇怪な奴め』
「大切だからな・・・俺にとっても、あいつらにとっても・・・」
『愚かだな、他を選び己の滅びを是とするとは』
「価値観の違いだろ・・・」
『・・・こんな短慮な小僧が我が主とは嘆かわしいわ』
「愚痴は後で聞く・・・頼むから・・・」
聞こえなかった最後の台詞に今度は深い溜め息をついた。ファイを睨み、嵐帝は大きく羽ばたいた。
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