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それ以上の問答に、意味は無かった。
ウルガがその場から飛びのく。其の瞬間数多の短剣がウルガのいた場所に突き刺さり、残像をかき消す。弓を引く音がして、風を切って矢が飛んだ。しとめたのは2人ほどで、後は殆どかわされてしまう。次の矢を番えようとしたウルガの懐に黒い影が入り込み、胸を打つ。ばきりと肋骨の折れる音がしてウルガは床に叩きつけられる。しかし痛みに呻いている暇などない。自分に向かってくる拳を転がってよけ、体制を整える。
背後から迫っていた一人を回し蹴りで昏倒させる。顔面に飛んできた拳をよけきれず当たる。一瞬意識が飛びそうになるが何とか耐える。しかしもう一撃食らわそうと引かれた腕は止められない。
自分に来る衝撃と其の後の沈黙、そして死を覚悟する。
黄色い残像が、待っていただろうウルガの死を覆した。
「ざ、びぃ・・・」
「わり、ビビリすぎて動くの遅れた」
相手の胸に短剣を突き刺し投げ捨て、そう言ったザビィの声はかすかに震えていた。
後ろから光が飛び出し、てこずっていたレンドルーア侯の手下を消し飛ばす。
「フリーズ・・・」
「ごめ、喋ってる余裕、ない・・・」
先程よりも元凶に近い位置にいるためか、更に悪くなった顔でフリーズはそういった。人間は、怖くない。怖いのはファイをつかんでるあれだ。
「サタン・・・」
「何をどうやったらあの状態から復活できんだよ・・・」
「・・・復活じゃなくて、再誕だとよ」
ウルガは今までの経緯を簡潔に、痛みに耐えながら伝える。汗がとめどなくあふれ出るのは圧迫されるような苦しさから来るものだろう。
「あいつは、レンドルーアはどうやってかは知らねえけどファイにあれを孕ませて、生ませた」
途端、二人の顔から恐怖が消えザビィは殺気を、フリーズは怒気を容赦なく振りまく。それでもサタンへの恐怖心が完全に消えたわけではないらしく、いきなり飛び掛るという馬鹿な真似はしなかった。
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