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荒野、死体、悲鳴、鮮血。何処にでもあるような戦争の風景。
しかし行われているのは戦争ではなく、略奪。餌は金品、食料、女。
今も今とて少し離れたところで男と女が取っ組み合っている。
ファイは少しいらっとしながらそのやり取りをする方へ歩いていく。
「オラ殺されたくなけりゃとっとと付いて来い!!」
「いやぁぁあああ!!」
嗚呼、耳が腐るくらい聞いた腐るくらい在り来りな台詞。
「お、何だてめぇ、やる気か?」
挑発さえ在り来りすぎてもう聞く気も湧かない。
「聞いてんのかてめ」
「煩い」
「え?」
悲鳴もなく息絶え地に沈む。
悲鳴など上げさせない。それすら聞いてやろうとも思わなかった。
「・・・あの、ありがとうございます」
「何が」
「助けてくださって・・・」
「助けたんじゃない。煩かったから斬っただけ」
「しかし・・・」
「煩いな、黙らないとあんたも斬る」
「ひっ・・・!」
「目障り。消えろ」
女は走っていった。その背に野垂れ死ね、鬱陶しいと心の中だけで罵倒する。
弱いくせに、逃げ足と礼だけは一丁前だな、なお鬱陶しい。
ファイは剣に付いた血を振り払う。この剣には何の思い入れも無い。中古で安かったから買っただけだ。
何の変哲も無い両刃の片手剣。使えるから使う。使えないなら棄てるだけ。
それ故に軽い荷袋なのだ。不要なものは背負わないに限る。
しかし
(これは何か棄てられねえ)
自分の手首で煌く銀色の腕輪。これだけはいつも自分の腕で自己主張しているのだ。
「・・・まあいいか」
あってもなくても困らないし。ファイは最早いる意味のなくなった其の場所から立ち去った。
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