8
其の後のことは何も覚えていない。気が付いたら真っ赤っか。
何もいなくて今までのことは何も覚えていなくて綺麗なものもいなくなっていて、綺麗なものに出会ってからの記憶が綺麗に消えていた。
それは又一人になった。
只違うのはそれにはファイと言う名前があって、言葉が話せて、手首には返り血ひとつ付いていない銀色の腕輪が鈍く光っていたことだ。
ファイはここから立ち去った。何故かここには居たくないと思ったから。
そうして又戻っていく。普段の殺戮の日々へ。
「―――奏でし乙女の子守唄、さらさらながるる時とともに――」
言霊を携えて、進む。止まれないことは知っていたから。
言霊をつむいでいく。紡がなければいけない事実があるのを知ってしまったから。
「風化し朽ちて、闇となる――――」
それは絶望と言う子守唄と言うことをファイは知らない。其の先の光も、もちろん知らない―――
[ 8/164 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]